歌人を偲ぶ森の一軒宿   泉質:★★★★(単純泉?塩化物泉?)
情緒:★★★★★(明治時代の面影)
環境:★★★★(蔦の森に囲まれる宿)
 

酸ヶ湯と同様、国道103号線沿いにある一軒宿。
周囲には山も川もなく、完全に森の中にある立地だが、宿前の大きな駐車スペースによって、あまりそういうことを感じさせない。
メインとなる建物の外観は、昔の宿の面影をうまく残している。帳場の雰囲気がとても印象に残る。まるで明治大正時代の空気がそのまま残っている感じだ。

この木造の古い宿はガイドブックなどで写真によく載っているが、実は横には3階建の新館があって近代化されている。これは私も行ってみて初めて知った。名湯と言えど、素朴さより便利さを優先させないと客がとれないのだろうか。

           
   
風呂は「泉響の湯」と「久安の湯」の2つ。どちらも内湯で露天風呂はない。
その分、できるだけ開放感が得られるような造りが心掛けられている。
 

※パンフの写真より

 

まず入った泉響の湯は宿の最奥にあり、改修して新しく設けられた形跡がある。
木を存分に感じさせる浴室は天井がとても高く、明かりとりが設けられている。そんなに広くはない浴室だが、この天井のおかげで窮屈感はまるでない。快適だ。

泉質は単純泉(だと思ったが、分析表にはナトリウムー硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉とある)で無色無臭、湯の花もない温泉だが、そんじょそこらの単純泉とはわけが違う。
蔦温泉の特徴は、源泉が湯船の底から直接湧いてくるところにある。これ以上新鮮な温泉はない。生まれたてのお湯は、何て言うか、生きている感じ。貼紙に書かれていた通り、湧きたてなのでお湯がこなれておらず熱く感じるが、それがまた他にはない味わいである。玄人向けの温泉だ。

 
もうひとつの久安の湯は昔からある浴室のようで、庭園風の湯溜めなど、風流な造りが特徴的。
温泉は底に敷いてある年季の入った大きな板の隙間から湧き出てくる出てくるもので、かなり熱め。湯船は広く、狭さを感じさせない、絶妙の空間感覚である。
       

蔦温泉は、大町佳月という明治大正の作家が晩年を過ごした宿ということでも有名であり、墓もここにある。それだけに宿の内部は文学的なセンスに溢れ、この辺り一帯の温泉宿とは一線を画す格調が感じられる。
泉響の湯の脱衣所には庭園が開かれ、佳月の句が掘られた石碑とともに鯉が泳いでいる。まるでどこかの料亭の中でも歩いているかのようだ。


 

昨今の温泉ブームにはまったく感知しない独自の温泉文化が脈々と受け継がれている気がする。
年齢層の高い客にウケるタイプの宿だが、俗化された温泉に飽きてきた頃に入りに来ると、本当の温泉の良さが身にしみることだろう。

また、宿の周りにはブナの原生林が広がり、その森を周遊できる遊歩道が整備されている。
入浴前の軽いトレッキングにはぴったり。八甲田の自然を身近に感じられる。

 
青森名湯案内 Top Page に戻る
 
R style since 2002. Copyright 1059. All Rights Reserved.