桂離宮より再びエスに乗っかって、京都市街に舞い戻る。
八条通から七条通へ。京都駅前辺りから道は狭く賑やかになってくる。その駅前エリアを通過して、鴨川を渡る。桂から思いっ切り京都を横断するルート。用意周到な割には効率悪いな(笑
                                     
                                     

訪れたのは、七条通を挟んで国立美術館の南側にある三十三間堂だ。東山地区という、京都でも指折りの混雑地区の中において、意外とクルマで訪れやすいので、今回のツーリングに加えてみた。

駐車場は七条通側にある。しかも無料。観光スポットからはやや独立した位置にあるものの、このアプローチのしやすさは意外。ただ、一応敷地内からは出ないことと、約1時間程度の駐車時間でお願いしたい、てなことをお願いされた。この日は平日ってこともあって、駐車場は空いていた。

 

新しい拝観受付の建物を潜ると、本堂の妻側がドンと迎えてくれる。

三十三間堂は、正式名称「蓮華王院」という。
平安時代後期、後白河上皇の院政庁だった「法住寺殿」の一角に、平清盛に造営させたのが蓮華王院で、当時はひとつの大きな寺院の偉容を誇っていたらしい。

その後100年の間に2度も大火に見舞われ、伽藍のほとんどを消失。
再建されたのは、そのうちこの本堂だけ。なので、お寺的な伽藍配置とかそんな雰囲気は一切無く、京都の街区にぽつんとこのお堂だけが寝そべってる感じ。

ぽつんと、と言っても、このお堂の「長さ」ったら尋常ではないんですが(^ ^;

 

「三十三間堂」という通称は、内陣の柱間が33スパンあることに由来してるってのは有名なハナシ。
庇の間も入れると、正面35間、側面5間。 その結果、本堂の長辺は何と118mもあり、たぶん世界一長い木造建築なのでは、と思われる。

しかも目の前にあるこのお堂、創建100年後に再建されたお堂そのものなのだ(ってこと今回初めて知った)。つまり、再建された1266年の建築。鎌倉時代の建築が、時空を超えて目の前に存在していることに興奮を覚えてしまう。鎌倉時代の貴重な遺構、当然ながら国宝である。

建物のインパクトも凄いが、内部はもっと凄い。
残念ながら写真撮影できないので紹介できないが、100mを越えるひな壇に整列する1001体の観音像はとにかく圧巻。金色に輝く観音様は、誰一人として同じ顔をしていないとか。1001人もいるので、自分に似た観音様が必ず存在する、とウワサであるw

これほど大人数の観音様、どうやって造ったんじゃ?、というのが、ものづくり系の人間からすると不思議で堪らない(古い建築や美術工芸というのは、何でもそうだが)
火事の際、ほとんどの観音様も消失してしまったらしいが、うち124体は助け出され(運び出され)て現存(平安時代の観音様)。その他は、再建時に新たに復興された鎌倉期の観音様で、全部できるのに16年かかったという。1001人もいるので、誰かが必ず補修中、誰かはどこかの博物館に出張中と、実は全員がちゃんと揃っていることはほとんど無いとか(笑
その他にも、お堂中央にお座りになられている中尊様(運慶の長男作)、風神雷神像、観音二十八部衆像と、芸術的史実的価値一級の国宝のオンパレードである。

実は三十三間堂に来るのはこれが2回目。初回は思い切り遡って、小学校の修学旅行の時。来たこと自体は覚えてるけど、11歳じゃ感動も何もあるわけ無い。
今は全く違って、本当に味わい深く鑑賞することができる。子供の頃にそれが感じられればそれに越したこと無いが、歳を重ねてその良さが特にわかる場所かも。

昔、修学旅行で行ったっきりの方も、今行ってみると全然違う何かを感じることができるかもしれませんよ。
今回、齢三十三で三十三間堂再訪・・・・お後がよろしいようで(^_^;;

【蓮華王院 三十三間堂】
京都市東山区三十三間堂廻り町657
拝観時間:(冬)9:00〜15:30、(夏)8:00〜16:30
拝観料:600円
駐車場:有り(無料!)
撮影:内陣はダメ

・・・・・・・

     

     
 

三十三間堂はちょうど1時間くらいで見学終了。その後に訪れたのがここ。皇族の住まいでも寺院でもない、ただの町家。。

三十三間堂から北へ本の少し、東大路五条に程近い、小さな路地に面した「河井寛次郎記念館」という看板を掲げた町家。
細い路地に駐車場などあるわけないので、東大路のコインパーキングにエスを置いての訪問だ。

玄関を開けると、土間が奥の方まで続いている。木彫刻の飾られたミセの間の通り過ぎるとロッカーと受付台がある。
施設っぽい部分はそれくらいで、あとは普通に人が住んでいそうな町家そのもの。
ここは陶芸家であり民芸作家であった河井寛次郎が建築し、アトリエ兼住居とした建物。没後はそのアトリエの佇まいそのままに、一般に公開されているという貴重なスポットなのである。
受付を済ませた後に、いきなり目に飛び込んでくるのは、家の真ん中に位置する吹き抜けだ。おおらかで自由な住居空間が実現されているようで、いやがおうにも期待が高まる。  
   
2階部分と吹き抜けを分ける障子戸は腰下まで伸びていて、気をつけてないと転落してしまいそう。
普通なら考えられないようなことだが、芸術家のアトリエには、万人向けの安全性より、精神に作用する空間の開放性の方が重要だったのだろう。
事実、素晴らしく気持ちのいい空間を演出している装置だ。
 
年月を経て艶を増した家屋の木材と、柔らかな電球の灯りによって、ほんわり優しい空間が訪れる者を包み込んでくれる。
まだ訪れたばかりだというのに、この居心地の良い空間は何だ・・・
         

室内には、様々な民芸品や彫刻が展示されている。
河井寛次郎という芸術家の美術館という側面もあるだろうが、それをかつて彼自身が暮らし、創作活動の拠点とした空間で展開しているところに、箱としての美術館には無いリアリティがある。

ひとつひとつの作品が生き生きとしていて、命の息吹すら感じられるのだ。

アトリエ兼住居の内部空間は、暖かな光と影に包まれ、不思議な温もりが感じられる。民芸作品の雰囲気がそう感じさせるのかしれないが、この町家の持つ独特の趣抜きにして語ることはできないだろう。

河井寛次郎がこの家を建てたのは昭和12年。日本各地の民家(主に飛騨高山)を参考にして設計したとあるから、京都独自の町家と伝統的な日本民家が融合していると考えることができる。最初の吹き抜けなんかが好例だ。

 

箱階段で2階に上がってみる。
磨き込まれて艶やかに光る床板と、大きな造り付けの戸棚が真っ先に目を引く。

       
吹き抜けを見下ろせば、空間の積層が一目で把握でき、この町家の魅力を瞬時に感じることができる。
                     
 

今すぐに住めるような状態で家具が配置されている。
・・・ってゆーか、今も誰かが住んでいるような、そんな空気感がある。

今もここで、河井寛次郎は製作を続けているんじゃないだろうか。。。事実、彼が生前制作活動をしていた頃とほとんど変わらない状態で、室内は設えてあるようだ。

彫刻等の作品は、時折配置換えされる。

まさに町家そのものが美術館であり、その空間の趣を存分に利用した素晴らしい芸術体験だった。

     

ここまで見ただけだと、河井寛次郎は彫刻家であったように感じてしまう。
実際彫刻家の一面もあったが、最初は陶芸家からスタートした人である。

その証拠?に、家の裏手に向かう(奥行きがメチャメチャ深い)と巨大な登り釜に辿り着く。
町家の密集する京の町中に、こんなバカでかい釜が潜んでいたのだ。。すぐ脇にはマンションの外壁とベランダが・・・(笑)(もちろん、もう使われてないけど)

 

登り釜に向かう途中で、庭越しに母屋の外観を眺めることができる。
よく手が入れられて、しっかりと建っている印象だ。

京都の町家といえば鰻の寝床と言われるほど細長く、庭があっても壺庭であり、建物の側面を眺めたりすることはもちろん、側面に窓があること自体も珍しいはず。

 

というようなカンジの河井寛次郎記念館だったが、紹介した内容以上に気に入って、随分長居をしてしまった。
京町家でありながら、その伝統だけにとらわれない発想に基づく空間構成を持つ町家建築。芸術家のアトリエを、当時そのままの状態を残しつつ、その空間で作品を展示するというコンセプト。
作品そのものの素晴らしさよりも、こういった背景の中に作品が置かれることによる空気感が心に残った。

あまり知られていないスポットかな、と思いきや、かなりたくさんの見学者が入れ替わり訪れていた。
特別歴史の長い史跡とかでもない所だが、町家であり芸術家のアトリエであった空間を、じっくりと鑑賞できるという希有な体験ができるスポットとして貴重な存在だ。

【河井寛次郎記念館】
京都市東山区五条坂鐘鋳町569
開館時間:10:00〜16:30、月曜と盆正月休
入館料:900円
駐車場:無し(東大路にコインパーキング有り)
撮影:受付で記名すれば自由

・・・・・・・

 

東大路のコインパーキングで再びエスに乗り込む。雨脚はやや弱まったものの、まだ断続的に降り続いていた。
時刻は既に16時に向かいつつあったが、足のある本日中に(明日は徒歩の予定)もう1ヶ所行っておきたい場所があった。

機動力のあるうちに向かうは鷹峯。今度は一気に北山方面である。無茶苦茶なルート設定だな(笑
川端通で一気に今出川まで北上。四条〜三条ではさすがに渋滞したけど、それ以後はスムーズ。出町柳で今出川通、そのまま西に走り続けて千本通で折れ、北山通となるところで分岐し、鷹峯へと向かう街道を突き進む。

 

京都のような、年中混雑した街中をクルマで走っても、というのが定説であり常識かもしれない。
けれど、京都という古都をS2000で走るということ、そして右の写真のような風情ある寺院を背景とした愛車の佇まいを味わえるということを考えると、それが魅力的なドライブになる可能性を秘めている。

基本的には混雑緩和の為あまり勧められたものではないけれど、今回のようなにシーズンオフであり、街中を流して楽しめるエスのようなクルマでのドライブならば、京都の街はなかなか合っているような気がするのだ。

                             
    上の写真の駐車した場所は、鷹峯の静かな環境にひっそりとある源光庵というお寺。
紅葉が特に有名な場所なので、今こんな時期に来ても静かなもんである。街から遠く離れてしまっているので、駐車スペースもご自由にといった感じ。他にクルマいないけど。
                   
     

これまで訪れている京都の寺院と比べたら、ここのは超小型。門を潜ったら、本堂を中心にしたコの字型の配列で建物が並ぶのみのようだ。

いかにも禅寺という枯淡の風情漂う境内。
源光庵で特に名高いのは、その禅の精神を表そうとするかのような、2つの「窓」だ。

                             
枯山水の庭園を臨む真円の窓。禅で悟りの境地を表す「悟りの窓」。
 
それに対して、「角」のある引き戸付きの四角い「迷いの窓」。
2種類の窓が庭に向かって意味ありげに開け放たれている。禅寺の奥深さだろうか。静かに張りつめた空間の中で、凛とした空気が漂っている。
           

とまぁ、見所と言ったらそれだけで、非常に小粒なスポットなのだが、この地味さ加減こそ、禅寺の趣ってものでしょうな。

悟りと迷いを行ったり来たりしながら(笑)、寺を後にする。
この後、すぐ近くにある光悦寺にも寄るつもりでいたけど、17時が近付いてきてたのでタイムアップとした。

本日の行程終了とばかりに、もと来た千本通を引き返していく。

 

【源光庵】
京都市北区鷹峯北鷹峯町47
拝観時間:9:00〜17:00
拝観料:400円
駐車場:有り(無料!)
撮影:OK!

 

その千本通沿い、光悦芸術村の入口付近にある松野醤油に立ち寄ってみた。

京都で一番の老舗という造り醤油屋。直売店の奥には、巨大な木樽が並んでいる。

うすくち、こいくち、どれにしよう?って悩んでしまうが、よくよく考えたら、普段醤油ってほとんど使わないんでしたっ!(早く気付けよ)
結局購入したのは、ポン酢とつゆでした(^ ^;

           

この後、とっておいた宿に入ってエスをデポ。
休む間もなく四条に出て、ゆっくり夕食を楽しめる場所を訪れることにした。

その前に、四条烏丸のCOCONにある京唐紙の店「唐長」に寄って、唐紙の鑑賞&物色。昨年の正月も訪れた店である。
店員のおネーサンと談笑しながら、気に入った唐紙のポストカードを購入。今回はちょっと春を意識したデザインを選んでみた。

           

夕食に訪れたのは、烏丸仏光寺にあるロビンソン烏丸。町家を改装したイタリアンレストランである。

京都では最近、町家を改修して店舗や飲食店にするのがブームなのか、こういうのが大増殖してる気がする。

古いモノの価値を見直す、というスタンスは非常に共感できるが、果たしてその良さは活かされているだろうか・・・

内部は、大梁を露出させた吹き抜け空間で、非常に開放感があった。大ホールのビアレストランって感じ。
町家の構造体とシャンデリアのミスマッチが、妙にカッコいい。
                     
   
町家らしく壺庭は健在で、ライトアップされたそれを眺めながらの夕食となった。
町家再生利用の雰囲気はまずまずかな。食事の方はフツーだったけど(^ ^;;)
                     
2日目へGO!
                     
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