廻り目平  秋深まる絶景のキャンプ場へ

 

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10月のある週末、金峰山に登ることにした。

10月頃って毎年無性に山に登りたくなる季節だ。
思えばこれまで登った想い出深い山は、この時期に集約されている気がする。
そう感じるのは、美しい紅葉を思う存分眺めながら歩けることと、冬になったら登りたくても登れなくなることがわかってるから、だと思う。

だから、というわけでもないけど、ちょうど1年前の栗駒山以来の山歩き。
今シーズンは初。にしてこれ最後(汗
何のトレーニングも準備もしてないし、日頃の激務で疲労の色濃い状態で、果たして大丈夫なのか。

                                                               
     

5:30頃に練馬を出発。2時間半程しか寝られず、疲れていないと言えばウソになるが、、走ることと自然の中に身を置くことへの期待感があるから出立できる。

絶妙の早起き加減で、中央道の渋滞には遭遇せずに山梨県入り。釈迦堂PAで朝食。小淵沢ICまで走って高速を降りる。

高速降りてすぐの道の駅で高原ドライブの準備。
窓ガラスを拭き上げて、屋根をオープン。八ヶ岳に抱かれた高原の冷たい空気がコックピットに充満する。

                                                               

八ヶ岳高原ライン

小淵沢ICから北へ延びるのが、八ヶ岳高原ライン。明確な勾配があるような道ではなく、八ヶ岳の山麓を等高線に沿って走っていくような道路である。

ほとんど森の中を走っていくような感覚で、コーナーは思いの外回り込んでいる。3速ホールドにしてGを感じながら旋回するか、2速に一旦落として加速感を楽しむか迷うところ。

時折八ヶ岳と思われる山容が見え隠れするが、駐車するスペースが全く無い。あっても眺めが良くなかったりして、そのまま大半の距離を稼ぐことになった。

     
                                                               
                                                               
八ヶ岳高原ラインもそろそろ終わりかというところで、現れる絶景ポイント、東沢橋越しの八ヶ岳。鮮やかな色彩の紅葉の海の中に、更に一際鮮やかに映えるアーチ橋のアクセントが効果的な景観だ。背後にででんと控える八ヶ岳の迫力も圧倒的。胸の透く眺望に思わず見入ってしまう。
                                                               
東沢橋まで下りてみる。
びっかびかに鮮やかな赤だと思ったら、ちょうど塗り直したとこだったらしい。
                                   
         
                                   

橋上からは、谷間の延長線上にそびえる八ヶ岳が拝める。八ヶ岳は複数のピークの総称なので、これは正確には天狗岳だろう。上の写真で言うと、右側のピークだ。

ちなみに左側は順に赤岳、横岳、硫黄岳で、左端の八ヶ岳最高峰の赤岳は2年前のちょうどこの時期に登頂した山だ。

八ヶ岳へと続く紅葉の谷は、まるで燃え盛る大海原のようで、その勢いに道路も人も飲み込まれてしまいそう。

八ヶ岳という山はゴツゴツとした歪な山容でともすれば不格好なイメージがあるが、僕はこの山が結構好きだ。無骨な容姿がオトコらしく感じられ、どっしりとした逞しさの中に崇高な存在感が感じられるところがイイ。
登っても楽しい山だが、眺めても楽しめるっていうところが八ツのイイとこだよね。
                   
       

国道141号に出た後、野辺山に向かったが、 駅周辺はイベントかなんかで封鎖されていたので、そのまま北上。数km行って県道68号に入る。

まっすぐ突き進めば三国峠で埼玉県の大滝村に至る地理関係だが、エスではこの峠越えはムリ。
今回は金峰山に登りにきたので、その拠点となる廻り目平キャンプ場にまずは行くのだ。

川上村のスーパー「ナナーズ」で食材の買い出し。田舎のスーパーだが、肉でも総菜でも何でも安くて驚いた。

 

県道を逸れて、廻り目平への道に入ると、再び紅葉が鮮やかになって目に飛び込んできた。

山の斜面によって色付き方が全く異なる。特に西向きの斜面が鮮やかで、その色彩に目を見張る。

道路は見通しの良い高原野菜畑の中を突き進んでいく。クルマの通行が全く無い代わりに、トラクターがやたらと走っている。まるでクルマの代わりに自家用移動手段としても使用してるんじゃないかというような頻度だった。

     
     

廻り目平キャンプ場

そして廻り目平に到着。有料駐車場のようなゲートで駐車券を取って、山荘に受付に行く。

山荘は登山の拠点になる宿泊施設だが、ここまでエスでも難無く来れる道のりなので、キャンプ場の人出も凄い。人気のあるキャンプ場なのである程度予想はしていたのだが。

キャンプ場の利用料金は、クルマ1台+大人2人で1400円。標準的かちょっと安いくらいかな。

 

最初に金峰山に登ることにした、って言ったけど、そもそもはこのキャンプ場でキャンプしてみたいというのが先だったかもしれない。ここからだったら金峰山にも登れるジャン・・っていうノリで決まったというのが正確なとこかも。

ワイルドな景観を楽しみながら、原始的な山岳キャンプを楽しめるらしいとのことで、僕のキャンプ趣向にばっちりハマる。山奥谷間のドン突きにある地理条件で、ツーリングの拠点にはならないから今まで来たことがなかったのだ。

だから今回は趣向をやや変えて、クルマによるツーリングは早くもここまで(まだ昼前だが)とし、珍しくキャンプ場に停滞して、廻り目平の自然を堪能するのだ。

キャンプサイトはとても広く、お隣と近過ぎて・・・っていうような不満はまず起こらなさそうなくらい。
ただ、サイトと言っても林の中で適当にテント立ててキャンプしてってカンジなので、平らな場所を探すのに苦労する。

でもこのワイルドさ、自然との近さが堪らない。澄んだ空気と木立に囲まれて仮住まいを設営すると、不思議と自分だけの世界が出来上がったような気持ちになる。

 
                                 
     

この廻り目平キャンプ場に来て真っ先に驚いたのは、その広さワイルドさではなく、その景観の素晴らしさだ。

基本的に山に囲まれた谷間の登山口に位置するのだが、周囲に鎮座する山々の容姿が実に個性的。山と言うより岩場に囲まれているような状態で、ちょっと他にはない迫力の風景が見渡す限り広がってるのである。

それもそのはず、廻り目平は「日本のヨセミテ」みたいに呼ばれているらしく、ロッククライミングのメッカだそうだ。登山ができて岩登りができて、更に最高の環境でキャンプが楽しめる(渓流も存在する)というシチュエーション。
首都圏近郊にこんな場所が存在するのだ。

                                 
         
                   
エスの向こうに見えるは屋根岩。
金峰山は明日登る予定なので、準備運動代わりにあの岩の方へ歩いていってみようか(岩は登れないので近くに行くだけだが)
     
                                                             
           

屋根岩パノラマコースという名前の付いたルートを辿って歩く。登山道と言うより、ほとんどハイキングコースらしくてイージー。一回りして1時間半程の山歩きだった。

屋根岩に行かずとも、岩場らしき場所は至る所に点在していて、岩登りを楽しむクライマーで賑わっていた。

テントに帰ってきて腰を落ち着かせる。
夕飯まではまだまだ時間があるので、本を読んだりスケッチしたり、のんびり自然の中での停滞を楽しもうと思ってたのも束の間、日頃の寝不足から強烈な睡魔に教われ、抵抗虚しく夢の世界へ。。

実際には夢なんて見ない程深い眠りに落ち、気が付いた時はテントの外は既に薄闇に覆われていた。。贅沢な時間の使い方のような、勿体無いことしたような。。

   
                                                               

夕飯を作る頃には、もう真っ暗闇だった。
今時、直火OKという奇特なキャンプ場なので、薪を拾い集めて焚き火でも楽しもうかと思ってたのに、爆睡によってそれは叶わず。

久しぶりに米を炊き、これまた久しぶりにチタン製フライパンを登場させてチキン焼肉。明日の登山に向けてスタミナを付けるのだ。

最後はさすがに味に飽きてきたが、ナナーズで調達した国産ワインがなかなか美味なおかげで完食。

     
                                                               

さすがに冷え込みが早く、持ってきた服を全部着込んでモンベルのバロウバック#4に包まっても、まだ少々寒さを感じる。このシュラフで寒いと感じたのはこれが初めてだ(僕はとても暑がりです)。これ以上の標高(廻り目平は1500mくらい)で停滞することはそうそう無いだろうけど、この季節を越えて山でキャンプするとなると、ダウンシュラフが欲しいところだ。

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翌朝、さすがの冷え込みによってテントから這い出すのには相当の気合いが必要だった。

当初の予定では相当早い時間から金峰山に登り始めるつもりだったが、寒さと眠気に負けて、何のことはないフツーに7時出発。登山時間では大遅刻の部類である。

← 寒そーに凍てつくS2000

 
                 

廻り目平から金峰山への登山はまず、金峰山渓谷を奥へと向かう林道歩きから始まる。
日差しが差して明るい道だけど、まだ寒い。

単調な林道を1時間以上も歩き続ける。
地図によれば、林道が途切れて砂防ダムが現れる地点から本格的に登山道が始まるみたいだが、砂防ダムが次々と現れるので、その度に一喜一憂してしまう。

     

ようやく現れた目印となる渓流の合流地点で、最初の休憩をとる。
気持ちの良いせせらぎの音を聴きながら、開けた空間で木々の色合いを確かめながら、これから続く急登に備える。

休んでいたら、2組の登山者に追い抜かれた。そう言えばここまで歩いてきて初めての登山者だ。
百名山である金峰山だが、登山道で会う人の数は本当に少なかった。廻り目平からのルートはメジャーじゃないってこともあるけど。。

         

思い出したかのように急な坂が続き、広葉(紅葉)樹林帯を抜けると、針葉樹の緑の中をえっちらおっちら登る道になる。

これがまた凄く単調。人が少ないのもわかる気がする。。ピークが見えないのはもちろん、景色も一向に開けないのだ。それが2時間程続く・・・

                                     
                               
 

まだかまだかと思いつつ登り続け、ようやく山小屋の壁面が樹林帯の合間に見えた。

一気に小屋の表まで駆け上がると、それまで森の中に窮屈に押し込まれていた景色が一気に発散して弾けたかのように眼の前に広がった。

                           

天に向かってそそり立つ巨岩。崖っぷちのこの位置にどうしてこんな唐突に現れるのか。

                                     
             
                     
        そしてその巨岩越しに広がる雲海と、その遥か向こうに八ヶ岳。
突然現れた眺望は圧倒的で、それまでの忍耐的登坂が一気に報われる思いがした。
                                                         
森林限界を超えたことによって、劇的に景色が変化したようだ。山小屋からピークへのラストスパートは、判然としない登山道。登りやすい岩場を繋いで頂点を目指していく。      
                                                     
           
振り向けば下界はますますの絶景、さっきの巨岩(右下)がもうあんなに小さくなっている。
                                                         
     

金峰山頂

そしてピークへ。巨岩が散在した頂きには、360°遮るものがない絶景が広がっていた。

西に南アルプス、東に甲武信岳に続く尾根、そして南には雲の海に浮かぶ富士山が拝める。

                                 
                     
                                                   
昇り詰めた頂上で目にしたキレイに折り重なった巨岩は、誰かが意図的に積み上げたんじゃないかと思わずにいられない程の見事なものだった。
実際は山が崩れていく過程で残っている地形なのだろうが。わかっていても、神秘的な何かを感じずにいられない。
     
                                                               
       

頂上は風が強かったので、少し下がった岩陰で昼食タイム。
本来ならもっと早く到達している予定だったが、相方のペースに合わせたおかげでほとんど定刻のランチになってしまった。

正面には岩の突き出た印象的な容姿の山が眼下に見える。瑞牆山だ。
雲海を挟んで、奥には八ヶ岳。今登ってきた廻り目平方面以外はほとんど雲海に覆われている。下界にいたら、イマイチな天気の中での休日だったに違いない。

カップ麺をすすった後、コーヒーを飲み、小1時間程休憩してから下山開始。今来た道を単純に引き返す。
縦走するのが理想ではあるが、マイカー登山な自分には縁のないこと。
登りでさえ退屈だった登山道が、また同じだけ続くかと思うと少々気が重かったが。。

そうそう、頂上にはそれまで合わなかったのがウソのように結構な人がいた。やはり裏道的な登山ルートだったんだろう。

 
     
帰り道は予想通り長かった。大体いつもは、登りがシンドイだけに帰りはあっという間というのが常なのだが、片道3時間程度の眺めの効かない登山道なので余計に遠く感じたのかも。
それでも登りより1時間程度は早かったはずだが。
 
 
 
林道に出て廻り目平に向かって歩いていると、迫力ある山々が次々と視界に現れる。
行きでは反対方向を向いてたので気付かなかったのだが、なかなかの眺望が続いた。

一見ドラゴンボールの世界のようにも見えたり →

キャンプ場に戻ってくると、朝方咲いていたテントの多くは撤収されていた。
それでも多くのロッククライマーらしき人々が思い思いに廻り目平の自然を楽しんでいる。

エスに戻ってきて荷物を降ろし、トレッキングシューズを脱ぐ。
裸足のままドアを開け放ったシートでしばらくぼんやり。1年ぶりのピークを踏んだ後の充足感。この満たされた感覚は、山を登らないと感じられない貴重な感覚だ。

テントに戻って素早く撤収。
今回は登山道具もあったので、エスのトランクは隙間なく満載。

午後3時過ぎに廻り目平キャンプ場を出る。
途中で温泉に寄ることにしていたが、予定より大幅に帰りが遅くなっているので、今回はパスすることとし、そのまま帰路に着くことにした。

川上村から県道を南下して信州峠を越え、みずがき湖の塩川ダムを通り過ぎ、県道23号から広域農道に入る。
ここで想定外の雨に降られて幌をクローズした後、韮崎ICから中央高速へ。
日曜の夕方で当然渋滞は始まっており、八王子ICまで我慢して走り通す。八王子からR16、新青梅街道に出て富士街道、練馬へと帰還。

さすがに1年もブランクがあると違和感があったが、前日の準備運動的ハイキングと食事で、後に引かない気持ちのいい運動的登山ができた。

それ以前に廻り目平の美しい紅葉景色が印象的だった。
日本のヨセミテの名に恥じない独特の景観が極彩色に彩られ、それに囲まれつつ豊かな自然の中でのキャンプ。
ツーリング中の停滞とは一味違った満足感が残って、とても良い週末を過ごした気分だった。

 
Touring S2000
                                                               
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