天平の甍

今回の奈良の旅で、法隆寺ともうひとつ、とても楽しみにしていたのが唐招提寺だった。
その唐招提寺において中心的な建造物である金堂が、約10年間という平成の大修理を終えて一昨年の秋に完成し、一刻も早く見に行きたいと思っていたのだ。

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天平時代の金堂建築として、唯一現存する唐招提寺金堂。
一直線に伸びる参道の正面で、どっしりと構える幅広の面持ち。リズム良く並んだファサードの列柱と、軒を支える三手先の組み物。その上に乗っかる大きな寄せ棟の屋根は「天平の甍(いらか)」として名高い。屋根の頂部には、鴟尾(しび)と呼ばれる角状の巨大な屋根飾りが天を指す。

独特の安定感に加え、簡素ながら気高い美。特に屋根の存在感は圧倒的だ。
天平時代の金堂は、今よりももっと勾配の緩い屋根だった。慢性的な雨漏りに悩まされて、江戸時代の修理時に2.8m頂部を上げたという。そのせいでどこか頭でっかちな印象がある。天平時代のオリジナルのプロポーションは、今よりずっと美しかったに違いない。

だとしても、この存在感は何だ。

道路から南大門越しに既に金堂は見えていたのだが、門をくぐって間に遮るものがない状態で対峙すると、なぜだかそこから金堂に近付くのが躊躇われるのである。
天平の頃から変わりのない自然に囲まれた聖域。その先に鎮座する建築から発せられる見えないチカラが、先へ進むことを留まらせる。

どうしてもここから先に進むことができない。
いつまでも、いつまでもこの風景を前に、ただ立ち尽くしている他なかったのだ。
2011/02/22(Tue) 02:09:38 | Touring & Driving
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