■北の地のさらに北の島へ


道の駅を出発する頃にはすっかり朝。ただ空は全面雲に覆われている。

新十津川に入ると、R275は右左折を繰り返す。雨竜、北竜と通過し沼田。沼田で上陸後初のセイコーマートに寄ってコーヒーを買った。

   
                                 
                 

外からエスを眺めてみると、昨日雨の十和田湖を走った影響か、旅立ち2日目の朝にしてボディは白茶けていた。これから1週間旅するのに、最初っからこんなナリではマズいだろうと、沼田の洗車場で軽くボディを洗い流した。
旅の最中は可能な限り車体は美しく、というのがポリシーなのである。北海道は小さな町でもだいたい洗車場があるのでありがたい。

洗車していたら、雲の切れ目から少しだけ青空が覗き出した。

しばしの停滞の後、R275を更に走り続ける。

R12の裏道として使えるのはせいぜいこの辺りまでで、残りは北海道ならではの1本道ルートになる。そういった意味で、R275のマニアなドライブルートはまさにこの辺りから。本当のお楽しみはここからなのだ。

ちなみにR275は、札幌を起点として道北オホーツク海側の浜頓別まで延びる北海道有数の長距離国道。
旭川周辺を境に、北と南でその表情がまるで異なる二面性を持っている。

               
                       
 

深川市に入り雨竜川沿いに北上すると、目につく景色は明らかに変わった。
それまでの平地に広がる田園地帯から、もこもこした緑に囲まれ、穏やかな丘陵が広がる自然豊かなカントリーロード。

緩やかな峠を越えると幌加内町。周囲には広大な畑が広がっている。そばの畑だろうか。
幌加内はそばの生産地として有名な場所である。信州、山形に限らず北海道もそばは有名で、そして美味い。できれば久しぶりに味わいところだが。。

                                       

その前に、せっかく長々とお付き合いしているR275で撮影を・・・

なかなかいいポイントが見つからずに、ついには幌加内まで来てしまった。
走り始めてから丸1日が経過している。途中フェリーが挟まっているので効率は良くないが、1日で東京からひたすら北に行こうとしたらこんな距離感になるらしい。

               
国道を挟んで、長閑な丘陵地帯と、どこか湿原っぽい風景が共存していた。
これからは道北エリアに入っていく。こういういかにも北海道らしい雄大な景色が、これから散々拝めるに違いない。
 
                         

幌加内の町中を通過し、再び山中へ。

 
 
  途中、幌加内の道の駅で歯を磨き顔を洗う。
この道の駅にもそばを食べられる店はあったが、開店時間はずっと先だった。町中にも何件もそば店はあったが、朝早過ぎ。幌加内そばを味わうことは、叶わないようである。
 
道の駅から更に北上を続けると、国道239号との分岐が現れる。当然の如く信号無し。両方とも道はしっかりしているのに、青看がないと絶対にわからない分岐である。それが北海道では当たり前。
その分岐を一旦通過して、R275を更に北上する。
               

朱鞠内湖

その先に現れるのが朱鞠内湖。
日本最大の人造湖は、一際人の気配のない北海道の山中に存在する。

あまりにも入り込んだ地形のために、1ヶ所から湖の全景を捉えることは不可能で、その大きさを一望することは叶わない。

寂しい展望台から軽く眺めて、遠い所まで来たもんだと感慨に耽る程度だ。

 
               

札幌からずっと辿ってきたR275大冒険は、とりあえずここまでとすることにした。
この先美深で国道40号に吸収され、音威子府で再び分岐。中頓別を過ぎて浜頓別まで完全走破するのもロマンあるツーリングルートだが、本日もフェリーの時間に拘束されている関係上、そのルートはお蔵入りとした。

代わりにスイッチする対象となったのは、少し戻ってR239。これを日本海側の苫前に向かって走り、そこからはオロロンラインを行く予定である。

R239の幌加内~苫前区間は、霧立峠を越えるワインディングロード。北海道には珍しい、地図上にクネクネとした線形を描いている国道である。それもこのルートを選んだ大きな理由のひとつ。やっぱ平坦でまっすぐな道ばっかりじゃ面白くないからね。

                       
   
                   

R239に入ってすぐに峠自体は越えてしまう。
そこからは海側に向かってずっと下りなわけであるが、これが長い長い。いつまで続くんだこの下り道、ってなカンジで、ひたすら樹海の中の坂道を下っていく。

しかも、結構急激なコーナーを含んだテクニカルなワインディングロード。それでいてスピードが乗るのが、いかにも北海道。

 
                   
   
                         
 

気持ち良く流していると、後ろから猛烈なスピードで追い上げてくるストリームが。。

ちょっと逃げてみるかな、とペースアップ。ストレートでは自制心が働き差を詰められるけど、コーナーではエスの抜群の運動性能を生かして、相手の視界から遠ざける。その繰り返し。
いやぁ、北海道のワインディングは朝からアツいねぇ(笑

                         
             

北海道らしからぬ峠道らしい峠道を走り続ける時間は至福の時だった。
名残惜しくも、R239は日本海に飛び込む直前に、国道232号に突き当たって姿を消す。

ここからは日本海オロロンラインと呼ばれる極上のツーリングルートを北上していく。

 

とその前に、苫前の道の駅で入浴休憩することにした。前日から温泉入ってる暇もなく走り続けてたので。。

苫前の道の駅は前回訪れた際にも立ち寄っていて、その立派過ぎる施設の全景が記憶に残っていた。
朝ではあったが、ちょうど入浴時間が始まろうかという時間。で、行ってみると、30分後の開館だった。。

旅の途中で、待つだけの30分のロスは大きい。ちょっと悩んだが、せっかく羽を休めることにしたんだし、多少休憩も兼ねて待ってから入ることにした。

海に近いだけあって、塩分の強いキリキリとしたお湯だった。
開館直後に入浴ってケースはそんなに無いのだが、意外なほど混んでるもんである。まぁよく考えたら日曜だし。。

                                       
   
   

苫前を出発して、羽幌、初山別、遠別とクリアしていく。

この区間はとにかく爽快で、海沿いの丘陵地を緩やかなアップダウンを伴いながら貫いていく。
周囲の丘には何もない。視界は無限に広がり、遥か向こうの丘の地平に消え去っていく道は、いったいどこに繋がっているのか不思議ですらある。

           

サロベツ原野

R232は手塩で内陸に入り、海沿いのルートを道道106号に明け渡す。サロベツ原野の直中を貫く原野の1本道の始まりだ。

天塩川の河口を橋で跨いだ後すぐに、巨大な風車が一直線に並ぶのが前方に見えてくる。サロベツ原野の始まりを知らせる特徴的な景色ではあるけれど、何となく茫洋とし過ぎていて、今ひとつ絵にならない景色という気もする。

サロベツ原野はこれまで訪れた時はすべて、道道106号を一直線に走って野寒布岬回りで稚内に至るルートを選んでいた。それ以外のバリエーションを選ぶ必要がないほど、オロロンラインのクライマックスであるサロベツ原野の道道106号は素晴らしいルートには違いない。

 

                     

しかし、アスファルトが一直線に延びた景色だけがサロベツ原野の魅力というわけではないはずだ。
そう思って、今回はこれまで外すことのなかった道道106号を逸れることにする。
広い原野には、内陸を走る国道に繋がるように支線が何本か走っているのだ。

道道972号に入り、長沼近くにあるビジターセンターまで来る。
その間わずか数kmだが、海沿いのサロベツ原野とは趣を異にする景色が待っていた。

 
 

見渡す限りの原野かと思いきや、一方は見渡す限りの湿原地帯で、一方はこれまた広大極まりない牧草地。
海沿いを走っているだけでは想像もつかなかった桁外れの景色が潜んでいた。

湿原には遊歩道が張り巡らされているようで、せっかくだから散策を楽しみたかったが、フェリーの時間が迫りつつあるのでオアズケ。
その分、サロベツの大地に佇むエスの勇姿をじっくりと楽しんだ。

 
         
一度オロロンラインに戻って稚咲内まで北上。
 
左手の海上にはいよいよ利尻島が見えてきた。
利尻山は雲でその姿を隠していたが、その存在感に変わりはないように思えた。
                       

稚咲内で再び右折して道道444号に入る。サロベツの湿原のまっただ中を貫いていく。

途中に原生花園への入口があって、湿原の中に人の姿が見えた。 せっかくのハイキングコースだが、ここもパスせざるをえないのが惜しかった。
ほとんど夜通し走ってるにもかかわらず、稚内到着の時間を気にしなければならないほど、北海道は広いということなのだ。

   
                         
                       
                       
  道道444号から広域農道に入る。地図上は湿原の中を走っているような感じだったが、実際は農道なだけあって牧場の中を走ってる感覚が強かった。
             
   
 
道道763号から道道510号に入り、抜海にでる直前で、天北北部広域農道へと入る。
入口にミルクロードの看板が立っている通り、牧場の中を貫く農業用道路だった。
緩やかな丘陵を越えて、国道40号を目指す。
どこまでも続く牧草地風景は、まさに道北固有の風景。同じ牧草地風景でも、道東とは明らかにどこか異なった風景に見えるのが興味深い。
 

ミルクロードから国道40号に出て、稚内を目指した。

サロベツ原野では晴れていた空も、最北の地に近付くにつれて、どんよりとした空に急激に変化していった。

 

稚内

稚内の市街地に入る手前で給油し、R40を更に北上。稚内駅裏の駐車場にエスを停める。

エスから降りて肌に感じる最北の空気は想像以上に冷たかった。7月なのにもかかわらず、Tシャツ1枚では寒い。さすが稚内である。
そんな夏とはかけ離れた体感温度の中、街中では夏祭りの真っ最中。浴衣姿の子供達が大勢いた。

     
                           
           

見たことないような寒々しい風景の夏祭りの商店街を歩く。フェリーに乗る前に稚内ラーメンで腹ごしらえ。

1軒目は夏祭り期間中だからか臨時休業中。2軒目に訪れた商店街の「青い鳥」というラーメン屋っぽくない名前のラーメン屋は営業していた。
狭い店内は飾りっ気もなく、いかにも田舎のラーメン屋っていうのがいい感じ。店員がすべて女性だった。地元のおばちゃん達が共同でやっているような風情も田舎っぽくていい。

 

青い鳥の稚内ラーメンは、シンプルな塩ラーメンが名物らしい。
迷わずそれを注文し、出てきたラーメンを見て驚愕。恐ろしく透き通ったスープ。確かにシンプルではあるけれど、透明のスープのインパクトはでかい。

こんなに透き通っていながら、スープの味はしっかりしている。あっという間にスープまで完食。近所にあったら絶対にヤミツキになりそうだ。

久しぶりに問答無用で美味しいラーメンに出会ったような気がした。

                                       
 

稚内~利尻・礼文航路は、ハートランドフェリーという会社が運航している。

利尻には空港があるが、礼文には現状海の航路しか渡航手段がないので、島に赴くにはこのフェリーを頼るしか術はない。ちょうど利尻・礼文は、この時期が観光ハイシーズンになるので、フェリーターミナルは団体観光客と登山客でいっぱいだった。

ターミナルの建物は新築で豪華である。受付はホテルのフロントみたいで、全然フェリーの受付っぽくない。
フェリー業界受難の現代、国内ではもはや珍しいくらいのドル箱路線なのだろう。あとで乗ってわかるのだが、フェリーも異様にキレイで豪華である。
建物やフェリーにお金かけるのを悪いとは言わないが、その分運賃も安くしてほしいのだが。。

                   
       
                             

稚内港を16:00に出港した。
北海道本土を離れ、いよいよ離島、まずは利尻島へと向かう。航行時間は約2時間。短いその時間だけでも寝ておきたいのだが、あいにく2等船室は、登山の格好をした中高年の乗客で超満員。足を伸ばすのは難しい状況だった。

これほど混んだフェリーは、奄美大島の復路以来か。とにかく縮こまりながらも何とか横になって寝ようと試みる。
今日は何のことないフツーの週末。しかも日曜の夕方の便。にも関わらずこの混雑。ハイシーズンゆえいくらか混むのは想像していたものの、明らかに想定以上だった。

   

陣取った席を離れたら、その時点で自分のスペースは無くなってしまいそうだったので、デッキで離れゆく稚内の町並みを見送ることもせず、ただ寝入るだけ。 足を伸ばせない状況ではなかなか寝付けない性分だが、さすがに寝不足が勝って、こんな状況でも眠りに落ちてしまった。
目が覚めた時には、利尻島はすぐそこに迫っていた。

 

利尻島

17:50頃、利尻島の海の玄関口、鴛泊港に入港。船体からエスごと飛び出し、島の人となる。

降り立った利尻の第一印象は、険しい北の島。分厚い雲で灰色に覆われた空の下に、断崖の見え隠れする険しい地形。
島の象徴とも言える利尻富士こと利尻山は、その胴体すべてが灰色のヴェールに隠されていた。それでも、海岸線に見える断崖地形は、日本海の北の端に浮かぶ島の険しさを充分に物語っている。

利尻の道の上のドライバーになり、まず向かったのは鴛泊の町。
港は町の端にあるので、まずは中心街の方向へと向かう。

鴛泊の町並みは、まるで昭和の映画にでも出てくるような、北の風情に満ちていた。
今は夏で、しかも一年を通して一番過ごしやすい時期に入ろうとしているので穏やかだが、厳しい気候に晒される真冬の情景はいかほどかと考えてしまう。おそらく想像を絶する厳しい情景が待ち受けているのだろう。まるでそれが手に取るようにわかるような感じがしたのだから不思議なものだ。

鴛泊のメインストリートを走っていると、セイコーマートを発見した。
今日はもうこんな時間だから、これから島を周遊しようなんてことは考えていなかった。さっき稚内でラーメンを食べたので、ゆっくり夕食という気分でもない。ビール買って、ここまでの睡眠不足を回復すべく、さっさと寝てしまうつもりだった。

かと言って、どこか泊まる場所を予約しているわけでもない。利尻に来ても、いつものようにキャンプである。

幸い利尻島にはいくつかのキャンプ場がある。
その中で、今回利尻のベースキャンプを張ることにしたのは、北麓野営場というキャンプ場。鴛泊から島の中心に向かって数km分け入った所にある、国立公園内の素朴なキャンプ場だ。

 
 

利尻北麓野営場

このキャンプ場を選んだ理由は他でもない。
明日は、利尻島のシンボルでもある利尻島に登頂してしまおうと企んでいる。 この北麓野営場は、その利尻山の鴛泊登山口その場所に位置しているのである。つまりは、クルマで来れて、テントを張ったその場所から登山を開始できるという、非常に都合のいい立地にあるのだ。

   
 

その北麓キャンプ場に訪れてみると、予想に反してしっかりと整備された小さな駐車場には車中泊と思わしきクルマが数台のみ。ガラアキだった。フェリーに同乗したおびただしい数の登山者は、一体どこに行ってしまったのか。

 

駐車場前の小さな管理事務所で、テントを張りたい旨を申し出る。管理人はなかなか愉快なおじさんだった。
2泊を申し出て使用料を支払う。手続きが済んだら、早速幕営の準備。

「野営場」というだけあって、サイトはワイルドそのものだったが、そもそも利用者がほとんどいなかったので(他に3張くらい)、テントを張る場所には困らなかった

   
 
     

野性的なサイトとは裏腹に、トイレや炊事場は立派だった。
特にトイレは、登山口のトイレも兼ねていることもあって、非常に立派。というか、山のトイレ、そしてキャンプ場のトイレとしても、たぶん最高にキレイな部類に入ると思う。
利尻山は全国的に見ても、環境面の整備と指導が徹底されていることでよく耳にする山だが、その一端がこのトイレなのだろう。

ちなみに利尻山には、この先頂上まで行っても、一ヶ所もトイレが存在しない。利尻では、各個人が携帯トイレを持参するルールになっているのだ。
携帯トイレは島のいろんな場所で購入できるし、登山口には回収ボックスも存在する。こういう点が、進んでいると言われる所以だろう。

                   

いきなりトイレの話になってしまったが(^ ^;)、ワイルドな野営場の割には、快適キャンプが楽しめそうな予感のする所だった。多少駐車場と離れてはいるが、あまり問題になる距離ではない。
とりあえずテントを立て、寝床を確保してから缶ビールを開けた。北海道に来たらサッポロクラシック。定番である。

明日は早朝から、この野営場から直接利尻山に登ってみるつもりである。
最初からその予定を組み入れたツーリングなので、準備は万端だ。エスのトランクには、これ以上何も入れる余地がないほど、ぎっしりと登山用具やキャンプ用具が詰まっている。

利尻山は2000mにも満たない山だが、円形の島の中心部に位置する独立峰だし、何より島ということで、ほとんど海抜に近い標高から登頂しなければならないこともあって、標高差が大きい。(山は絶対的な高さもさることながら、その標高差と斜度の影響が大きい)
簡単に登れる山ではないので、明日は1日を丸ごと登山に充てるつもりだった。出発目標時刻は5時。稚内に着いてからずっと曇りっぱなしの天気が気がかりだったが、雨が降ろうとなんであろうと、とにかく明日は登る。

そのための体力を蓄えるために、早々にシュラフに入って眠りについたのだった。

                   
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