■最北の島の大冒険


早朝、キャンプ場で身支度を整え、ザックを背負って歩いて出発。島の幹線道路、道道40号に出て、バス停にて始発のバスが来るのを待つ。
本日は、礼文島を最北端のスコトン岬から、ベースキャンプのある香深井まで徒歩で縦断するというアドベンチャーに挑戦するのだ。そのため、エスはキャンプ場(緑ヶ丘公園)の駐車場にデポし、スタートのスコトン岬までバスで移動する作戦を取った。

普段クルマでトレッキングのアプローチをすることがほとんどのため、縦走はほとんど経験がない。昨年の屋久島トレッキングでは半分?縦走みたいな感じで、元の登山口に戻るのにタクシーを使ったことがあるくらい。
クルマを使えないことには寂しさを感じなくもないが、稚内どころかベースキャンプまでエスでアプローチしてきたわけだから、まぁヨシとしよう。

 

安全見てちょっと早く出過ぎて、20分くらいバスを待つハメになった。海から吹き付ける風が身体を冷やす。昨晩同様フリースを着込んでいたが、縮こまるようにしてバスを待った。

やってきた路線バスには、既に多くのトレッカーが乗っていた。礼文島はそれくらい徒歩旅の舞台としてメジャーなのだ。利尻島のように大きな山があるわけでもないのに。

ちなみに礼文島のバスは、バス停でなくとも乗降が可能らしい。道端で乗りたそうにしているトレッカーがいると、その都度停車する。
礼文岳の登山口で何人か降りていったが、大部分の乗客(全員トレッキングスタイル)は終点のスコトン岬まで同乗することになった。

   
                                   
   

スコトン岬

昨日の夕方来た岬の早朝は更に寒々しく、強風が吹き荒れていた。
吹きっさらしに身を置くと、寒くて仕方ない。
夏とは思えないほどの体感温度。空は厚い雲に覆われて、ちょっと歩く気を削がれるスタートになった。

どんなに分厚い雲が頭上を覆っていても、幸い雨は落ちてこない。ズブ濡れになった屋久島に比べれば相当マシだ。

                                       
           

最北端から本日のトレッキングをスタート。南へ向かって歩き出す。
しばらくは車道に沿って。須古頓(すことん)の集落を過ぎた辺りで、鮑古丹(あわびこたん)なる集落へと続く脇道へと入る。

                           

いよいよ礼文島縦断トレッキングコースの中枢へと入り込んでいく感じ。

                                   

礼文島の縦走トレッキングコースは、島の西海岸に沿って設定されている。西海岸には車道が無い。手つかずの海岸線を延々歩いて旅するという魅力。ヒグマが棲息していないという安心感もある。

何よりも、手つかずの自然に咲き乱れる高山植物の風景が楽しみだ。

 

縦走コースには、枝道どの枝道で東側へエスケープするかによって通称が付けられている。
とりあえず歩いてみたい向けの4時間コースもあるが、今回設定したのは本格的に丸1日かけて歩く8時間コース。

通称「愛とロマンの8時間コース」(恥

何がどうしてこんな舌の浮くような名称がついてしまったのか(笑

ちなみに設定されているコースの中で一番長いコースがこの8時間コース。
以前は礼文島を端から端まで西海岸沿いに縦走できたようだが、現在は途中のコースの一部が危険ということで、立ち入り禁止になってしまっている。大きく迂回すれば縦走できなくもないが、1日では到底無理な距離だ。

8時間コースでも地図上では30kmはありそうな雰囲気。
コースタイム8時間というのは健脚が歩き続けて、のタイムらしいので、実際はもっと余裕を見ておいた方が良さそうなくらい。

   
                                                                 

いつの間にかかなりの高度まで来ていた。スコトン岬に至る海岸線の道、沖合にはトド島。
樹木の生えない丘陵地帯は、どこか不思議な景観だ。

道端には早くも多くの植物が花を咲かせている。
興味本位で目に止まった花々を写真に撮りながら歩くのでペースが上がらない。
                                                       
鮑古丹神社付近で、アスファルトの道から登山道ライクな歩道へと入っていく。
断崖を横目に見る道は、目の前の一際高い丘のてっぺんへと続いている。
 
             
                 
お花畑に囲まれた一本道を登り詰めた所が、最初のビューポイント、ゴロタ山だった。
                 

ゴロタ山

スコトン岬の南、東の海に突き出たゴロタ岬を望むゴロタ山は標高180m。
北はスコトン岬、南はこれから歩くであろう砂浜を一望の元に見渡せた。

180mとは言え、一気に登って汗をかいたのでフリースを脱ぐ。
脱いだらTシャツ1枚で、これはこれで寒い。びゅうびゅうと吹き付ける風は夏の気候じゃない。

でも歩けば寒さも感じなくなるはずなので、夏らしい格好で歩くことにする。

 
                 
                     
ゴロタ山で一服した後、南の眼下に見える砂浜に向かって登山道を下りていく。相変わらず吹き付ける風は強い。  
     
この付近の花々の群落が素晴らしかった。
ピークは過ぎてしまっているようではあったが、利尻山級の高山を歩いていると錯覚するかのような高山植物の群落は、辺境のトレッキングルートをわざわざ歩く理由として十分なものだった。
   
         

眼前に延びる砂浜と、北端の日本海を眺めながら下りていく。

吹きさらしの丘には相変わらず1本の樹木もない。寒風吹きすさぶ北限のごく短い夏の海を象徴するような風景だ。

足元の丸太階段は歩きにくいが、立ち止まっていると寒いので、トントンと下りていくことにする。
                                 

ゴロタノ浜

標高180mから一気に下りて、海岸の道へと出る。
そこから砂浜に下りることが可能だったので、浜辺を歩くことにした。

     
                                 
     

ゴロタノ浜と名付けられた砂浜には、いくつもの貝殻が落ちている。その貝殻を拾ってみると、ほとんど真円に近い穴があいていることに気付く。たまたまというわけではなく、拾う貝殻のほとんどに、1個ずつあいているのだ。とっても不思議。

何となく、貝殻を拾いながら砂浜を歩いていく。振り返ればゴロタ山が遠くに見える。
青空が広がっていれば、相当気持ちのいい風景だったはずだ。

       

鉄府

砂浜は港の防波堤で途切れた。鉄府という小さな集落に足を踏み入れた。
ちょうど港の前で公衆便所を発見したので便所タイム。ほんと数えるほどしか民家の無い小さな小さな集落だったが、そこには確実に人の営みがあった。

     
     

細長い集落の端部までアスファルトの上を歩いていくと、壁のような斜面が目の前に立ちはだかる。
ここからコースは再び山道となり、急勾配の道を息切らせながら登っていくことになった。

  鉄府の岬を超える丘は、見た目以上に急峻で、標高も高かった。地図上ではほんの短かな区間が長く感じる。

頂部で平坦な場所に出て緩やかに下っていくと、何やら赤い鳥居の神社の脇に出た。

神社の階段の下には漁村集落があった。
乗用車が走って行く先には広い駐車スペースが見え、観光バスが停まっている。

礼文島の観光地の中でも名高い澄海岬(スカイ岬)が近いことを示していた。

 
     

澄海岬

読んで字の如く、南国のように透き通った海と岬の風景が有名な場所で、心躍らせながら岬の先端へと向かう。
クルマで来ることもできる数少ない島の西海岸でもあり、道を歩く人は大勢いた。

岬への階段を上っている最中に、向こうから見知った顔が・・・・・若い男女2人は、利尻山山頂で写真を撮ってもらった2人だった(!)
向こうも自分を覚えていてくれて、お互い驚きの声を上げた後、明るく挨拶を交わした。どうもこの先でカヌーを楽しんだようだ。
イマドキのアウトドアファッションは礼文でも目を引いた。高尾山や北アルプスでは珍しくないファッションも、最果ての地では異世界の住人のようだ。(自分は結構好き)

     

澄海岬から見下ろす風景は爽やかとは言い難く、しっとりと濡れた色合いの濃い水彩画を見るようだった。空がどんよりと曇っている下では仕方がない。

それでもターコイズブルーの海は、清らかで美しい。
周囲を取り囲む荒々しい岩壁とは対照的に優しくたゆたう水面が、強烈なインパクトを与える。

浜に並んだ2隻のカヌー(さっきの2人が楽しんだ後だろうか)のビビットな色彩が、この風景にスパイスを与えて、どことなくマッチしていた。

   
 

岩場は海鳥のコロニーと化している。

島の南側を眺めると、果てしなく岩壁が続いていた。コースはまだまだ続くのだ。

地図を確認すると、この時点でまだ半分も歩いていない。
結構歩いたような気もするのだが。。

   
というのも、この澄海岬が「4時間コース」の海岸部分の終点なのだ。
そんなこともあって、そろそろいい所まで来たんじゃないかという錯覚に陥ったのだが、現実は甘くない。 目指す8時間コースの踏破には、まだまだ十分過ぎるほどの距離が残っている(汗
                 
  ここまでで所要3時間。
小腹が空いたので、バスの観光客で大盛況の駐車場前の休憩所で軽食。残りのトレッキングに向けて英気を養った。
   
                                               
                   
西上泊の集落を抜けて、再び道無き道へと足を踏み入れる。
こっちで本当にあってんのか!?と不安になるような草の生い茂った道で、これまでの整備されたトレッキングコースとは明らかに様相を異にしていた。
       
看板を頼りにルートファインディング。
持参した登山地図では、そこまでのディテールが判別できないのだ。
                                   
             
                                             
       

周囲の見通しが良くなった所で、クルマが通った跡の残る広めの道に出た。そこにこの先の道筋を示す看板。
この先車道無し。約13km・・・果てしない道のりである。。

しか し、これにビビっては8時間コースを余裕もって踏破などあり得ない。突き進むべし!

   
                                         
                                         
車道っぽい道に沿ってひたすら歩く。電柱が並行して立っているので、この先集落があるのだろうか。
今時、舗装路が通っていない漁村集落があるとは。。
30分ほど歩いていくと、車道との分岐に差し掛かる。
車道は召国という海岸の場所へ続いているらしい。その道と別れて、ひたすら内陸の丘の上に続いている道を行く。まだまだ先は長い。
 

何枚写真を撮っても同じ写真にしか見えないくらい、同じような風景が延々と続く。

山火事で失われたとかで大規模な植林が行われている風景が現れたくらいで、とにかく先の見えない丘の道をひたすら進む。

                                     
この天気だから普通なら気分が沈むトレッキングになるところだが、見慣れない風景の中、しかも急激なアップダウンのない道をテンポ良く歩いているので、意外とテンションは高いまま。
                                           

召国分岐から30分ほど経過すると、道の両脇がクマザサに覆われる景観に変化してきた。

やがてクマザサが人の背丈以上になり、周囲の様子がわかりにくくなった。

行く先には森が見える。
様相の変化は明らかだった。

                                           
 

森の中に入ると、行く先の風景が見えなくなったことで、もうすぐ目指す所へ着くのではないかという期待感が先立つようになった。

決して焦っているわけではないが、単調な道が続くと、そろそろだろうという気がどうしても先立ってしまう。小さな沢を見つける度に海が近いのでは?と期待を抱く。

しかし、いつまでたっても森の道は続き、一向に視界は開けないのだった。
                                                         
   
                       
   

それまで吹きっさらしの中を歩いてきたからか、暑さを感じるようになってきた。
森の中にいるからというだけはなく、いつの間にか日が射す時間が増えてきていたのだ。

森から一気に視界の開ける道に出た時、うっすらとかかる霧状の雲の合間から、明らかに日光が降り注いできていた。
今日初めて「夏」を感じた瞬間だった。

                                       
     

明らかに海側の斜面に出たはずだったが、海面ははるか向こう。
地図ではこの後、海岸線に一度出ることになっており、まだまだ道のりは長い。
それでも、時折目を楽しませてくれる道端の植物たちに和まされつつ距離を稼いでいく。

                                                       
   
               
 

やがて、行く先には海しか見えない場所にまで辿り着いた。

しかし、海面ははるか下。というか直下である。
何とここから海面まで一気に降りていくらしい。深く切れ込んだ谷間に向かってロープが道なりに垂れ下がっていた。

                                                                   
       
崩落しやすい斜面には小石が積もり、足元は滑りやすく、細心の注意を要した。それでも、眼下に広がる久しぶりの海岸風景と、何より急激に現れた青空とのコンビネーションが美しく、心躍る。
   

遂に海岸に降り立つ。久しぶりの海抜0m。

降り立った浜にはカヌーを楽しむ人たちがいた。とは言ってもカヌーに興じている最中ではなく、浜で何やら撮影の準備をしていた。
その前を挨拶をして通り過ぎる。その中で、大声で挨拶を返してくれたヒゲの男性に見覚えが・・・
すぐに名前が思い浮かんだが、いつもと被ってる帽子が違うし。。。思わず、まじまじと顔を見つめながら通り過ぎてしまう。

実はこの男性、僕が好きなアウトドア系ライターの一人であるホーボージュン氏だったのだ。
この時は本人かどうか確信が持てなかったので、それ以上話しかけなかったのだが、帰った後に本人のブログを確認したら、まさにその時礼文島にいたという書き込みが!
失敗したなぁ。
   

浜に下りれば、後は集落まであと少し~とか余裕でいたら、どっこい、この海岸の道が難敵だった。

道というか、道という形状のものは何もなく、時には岩にしがみつき手足を伸ばして足場を探ったり、巨岩伝いに飛び越えながら進んでいくというアスレチックさ。想像以上に先へと進むことができない。

視界に集落が入ってきてからも全然前に進むことができず、あー長かった。

       
     
でも、青空の下で眺める最果ての海は最高にキレイだった。
       
       
           

宇遠内

まさに北海道の番屋風景といった感じの小さな小さな漁村集落、宇遠内に到着。スコトン岬を出発してから既に、7時間が経過していた。

車道も通じてないこんなとこに、人の営みがあること自体信じられないことだが、8時間コースの中継点になっているからか、公衆便所があり、休憩所にはおばちゃんが常駐していた。

8時間コースはここから内陸に向かって入り込んでいく。昔はここから先も海岸沿いに道があって、島の最南端までコースは続いていたようだ(その場合はもちろん「8時間」では無理だが)が、現在は宇遠内の先は道が危険なため通行禁止ということになっている。
宇遠内の集落内にもそれを伝える看板がいくつか立っており、旅人を東海岸側へと誘っていた。

ここまで来れば、あとは島を横断するだけ。7時間かけて歩いてきた西海岸の道のりに比べれば軽い軽い。

・・と思っていたら、のっけから結構な登り坂。さすがにそろそろ疲労感が増してきていたので、身体を前方に傾けるようにして一歩一歩進んでいくハメになった。。
うーん、今日はパワー配分失敗だな。。

                                             
     
                                             
宇遠内から真っ直ぐ東に延びる香深井林道は峠道だった。
峠を越えて下り坂になると、やがてクルマの通れる林道に出る。宇遠内から約1時間。クルマが走っていくのを見たのは、澄海岬以来だ。
     

車道をしばらく歩くと、視界が開けた所でアスファルト舗装の道路に出た。
広い車道には歩道があり、歩くこと10分程度(この10分が異様に長く感じた)、遂にベースキャンプ地の緑ヶ丘公園に到着。エスと半日ぶりの再会を果たす。

スコトン岬から所要約8時間半。まぁいいとこかな。
さすがに8時間コース、歩いている人はさほど多くなく、澄海岬から先は人に会うことも少なくなったことから、4時間コースを選択する人が多いと見える。

確かに澄海岬から南は単調で、距離も非常に長く感じたけれど、道はほとんど平坦なのでイージーな感じ。けれど歩き続けないと8時間で収めるのは結構キツい印象。途中で休憩を多く入れると、9時間、10時間と所要時間はテキメンに延びてしまう。

明るいうちに歩き始めて明るいうちに歩き終えることを考えると、結構ちゃんと歩けないとタイヘンかも。
歩くことを楽しむ余裕も欲しいしね。

何にせよ、歩き終えた充実感は抜群だった。
荷物を降ろしてトレッキングシューズを脱ぎ、早速温泉へと向かう。
礼文島では選ぶほど入浴できる所がないので、フェリーの発着する港にあった礼文島温泉「うすゆきの湯」という入浴施設に移動する。
1日の汗と疲れを落とした後、すぐ近くの食堂で腹ごしらえ。歩いている最中は食べる習慣があまりなく、とにかく腹が減ったのだ。

 

ろばた焼の店「ちどり

ホッケのちゃんちゃん焼きが名物の店のようなので、そちらを注文。

                                 

とは言いつつ、本当のお目当てはウニ丼
礼文島に来たら、やっぱこれでしょー(嬉

8時間コースを予定通り踏破した余韻とともに味わう本場礼文のウニ丼はサイコーだった(^_^)

 
                                   

最高の充実感とともに、ベースキャンプへと再度帰還。
昨日と違って同宿人は多くなく、静かなサイトで眠りにつく。

明日は早くも離島だ。フェリーの時間まで十分に礼文の道を楽しもう。

                                   
4日目 / 6日目
                                   
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