剱沢の朝。朝焼けに染まる剱岳を眺めつつ、キャンプ場を後にする。
3日目も雲ひとつかかることない絶好の天気に恵まれそうだ。滞在期間ずっと剱岳に抱かれ、その勇姿を目の前にしながら時を過ごすことができたことに感謝したい。

その剱とも別れの時がやってきた。ベースキャンプを早々に引き払い、剱沢を剱御前小屋のある別山乗越へと登っていく。
時々、背後の剱を振り返りながら。

この日は、1日目と同じ道を引き返すことになる。

剱御前小屋と別山との分岐では、ほとんどが別山へと登っていった。
時間もあることだし(天気も抜群だし)、別山から立山縦走して室堂に降りようかな、という考えもないことはなかったが、壊れたシューズでは。。。
ここはグッと我慢して、素直に来た道を引き返すことにした。

 
 

剱御前小屋前で、剱岳に最後の別れ。

本当に登り甲斐のある、厳しくも楽しい山だった。

ありがとう剱岳。
貴方に登ったことは、いつまでも忘れられない記憶となり、かけがえのない想い出となるだろう。

別山乗越から雷鳥沢へと下りていく。
雷鳥坂は登りもキツいが、下りも時間がかかって長く感じる。

ようやく朝を迎えた雷鳥平と、その向こうに見える室堂。登ってくる登山者もまだまばら。

雷鳥沢のキャンプ場がはっきりと見える頃になってくると、室堂一帯に落ちる陽の光もようやく明るいものになってきた。

 
       
       
称名川に到達すれば、長い雷鳥坂もおしまい。
見上げた雷鳥坂の山肌は、2日前より心無しかカラフルに色付いているように見えた。
紅葉は一気に加速して進んでいるようだ。色とりどりの絨毯が、室堂高原一帯を覆い尽くすのにはさほど時間はかからないだろう。
       
 

雷鳥沢キャンプ場に到着。長い下り坂で汗をかいたので、フリースを脱いだ。
日中は風もほとんどなく、本当に過ごしやすい陽気が続いている。

色付く天然の色絨毯と、カラフルなテントの組み合わせによる風景が面白い。

       
       

雷鳥沢から地獄谷を経由して、みくりが池へとやってきた。
1日目同様、この時間は立山の方角が逆光で、みくりが池に写る逆さ立山は上手く撮ることができなかった。
同じような時間でも、昨年の立山登山の時は撮れていたのに。季節によって太陽の位置がまるで違うことを実感する。

立山の代わりに、みくりが池越しに今下りてきた雷鳥坂と別山乗越を撮る。その背後から少しだけ顔を覗かせているのが、そう、剱岳だ(^ ^)

なんか立山の時の最終日と一緒だな(汗

一緒になるので、端折ってしまおう。

室堂からアルペンルートを扇沢へと戻っていく。
この時間に室堂から扇沢に向かう人は多くなく、逆に扇沢から登ってくる人の数は多い。

ボトルネックとなるロープウェイでは多くの人が順番待ちで時間を潰していたが、ケーブルカーの乗り場でも大勢が乗車待ちで並んでいた。

黒部ダムの上にも多くの人が。
最後の立山の勇姿を目に焼き付けつつ、真っ直ぐにトロリーバス乗り場へ。

扇沢の駅にも大勢が乗車待ちをしていた。
駐車場は一昨日の段階で満車に近い状態だったので、連休の中日である本日の状況では既に、ほとんど隙間もなくクルマで埋まってる状態だった。

連休2日を残して帰京するのは贅沢というより勿体無い感じだが、剱岳の余韻に浸るために寄り道もせず帰るのだ。

 
   

というカンジで、剱岳山行は終了。
アプローチが半分以上立山の時と同じなので新鮮味がないけれど、雷鳥坂を登った先は未知の世界で、フツーの人が到達できない山の中、という感じがし、自然に抱かれた感覚があって非常に良かった。

剱岳はさすがに厳しい山で、山登りというより岩登りに近く、それなりに慣れが必要で、自分の能力を頼りに登らなければならないという部分が大きな、挑戦しがいのある山だった。
それだけに、自分の能力で道を切り開くというプリミティブな行為から本能的な何かを呼び覚ます、という元来山の魅力だと感じていたことを強く感じることができたのは良かった。

剱岳という山は、その山容自体は小さな頃から親しみのあった山(富山平野から見ることができる)だったが、知れば知るほど遠い山という感じが大きくなる山だった。
一年前、立山に登った時は、剱に登るなんてとてもムリ、って思ってたくらいだったが、この1年でいろいろ登ったり情報を蓄えたりして、登ることができるという自信がついて今回の山行に繋がった。
危険を感じたり無理をしたり、体力が持たなかったりするようでは、成功した山登りとは言えない。
それらがほとんどなく、余裕を持って歩き登れた。それが剱岳だったというのは、大きな自信になる。

立山の時のように感情的に感動するということは正直無かった。
ただ、それは余裕を持って山を歩けている、山行が手の内に収まっているという感覚があったからかもしれない。(天候のおかげ、というのもあるけれど)
ドラマティックな景色の変化は無かったけれど、それは常に絶景が身の周りを支配していたから。
感動的な景色もさることながら、自分の力で厳しい剱を単独で制覇できたということに、大きな価値があるような気がするのだ。


季節や天候によって、剱岳はもっと厳しい姿を曝け出すのだろう。
今回自分が登った環境は、年間通して最も恵まれていた優しい環境だったように思う。
だから剱をやったという過信はせずに、毎回真摯な気持ちで山に向かえたら、と思っている。

頂きを征した後、下りの最中にソールが破けてスリップしたことは、剱による過信への警告だったのかもしれない。
壊れたシューズは勲章ではなく、常に真摯な気持ちであれという剱岳の警告の証として、脳裏に焼き付けておこうと思っている。

   
   

この偉容を、教えてくれた教訓を、いつまでも記憶の底に。


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Touring S2000 / 2日目山行
   
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