■屋久島 Grand Touring


急遽宿で迎えることになった翌朝、外は前日の暴風雨がウソのように晴れていた。
台風が過ぎ去った後は台風一過の快晴になる、と思っていたが、屋久島はさすが雨降る島である。台風直後であろうとも、上空には所々雲が浮かび、島を覆う機会を窺っている。

それでも分厚い雲というよりは、強風で粉々になった雲が再び集まりつつあるっていうような感じで、すぐさま雨の島に戻りそうな気配は無かった。

           
 

さて、台風で丸1日を棒に振ったということは、屋久島に滞在しドライブと山歩きを楽しむ日が1日減ったということになる。

帰りの屋久島発フェリーは、出発時に屋久島6日目となる明日の便を予約していた。(屋久島丸は車両を載せる場合は予約が必須ということになっている)
ただ、島を離れた後の明確なツーリングの中身が決まっていたわけでもなかったので、せっかくの屋久島、ここは島を離れる日を1日延期して、当初の予定通りの実質日数を楽しむことを決心し、昨日予約の変更をしたのだ。東京に戻る行程は厳しくなるが、行きだって1日で鹿児島から来れたんだから、まぁ問題無いだろう。

一旦キャンプ場まで戻り、台風は無かったことにして(?)旅の続きとする。
宿での朝食、栗生までの走行時間、なんだかんだの準備で既に9時を過ぎていたので、非常に遅いスタート。
今日はいよいよエスで島を周遊するという、(ようやく)ツーリングらしい旅を楽しむことにした。

キャンプ場のある栗生は島の南東端にあり、ここから時計回りに走りつつ、先々で島の風土を味わうつもりだ。

                       

栗生をスタートしてすぐに「大川の滝」という見所がある。そこにまずは向かおうと、意気揚々として走り出すと・・・・

いくらかも走らないうちに現れた道路情報掲示板には、「栗生~永田間通行止」の文字が・・・・
げげ、台風直後でまだ開通してないのか!?(T_T)

     

この栗生~永田という区間は、屋久島で唯一と言っていいフツーの道路である島の周回道路の中でも、人の手の入っていない島西部の海岸線を行く、険しい区間になっているらしい。

島に西側には集落どころか民家も無く、完全に森が海と接しているエリア。それがゆえに、世界遺産指定エリアが唯一海岸に達する場所でもある。

ただ、原生エリアを30km以上に渡って突っ切るそのルートを好んで走る島人は少なく、バスも通っていない。道路は狭く、大型車は通行禁止、今でこそ県道指定されているが、少し前までただの林道だったという道だ。そのため、今でもこの区間の県道は、「西部林道」という呼称でガイドブックなどには書かれている。

しかし、そういうルートこそ、R style的にはオイシイルートなのはご存知の通り(^ ^;;
この西部林道を走るのは、屋久島ツーリングの中でも最も楽しみにしていたことのうちのひとつなのだ。
原生の照葉樹林の中を突っ切るワインディングは、いったいどんな味わいなんだろう。

・・・・という感じで心待ちにしてた西部林道が通行止めなのである。悲しい。すごく悲しい(T T)
諦めきれず、掲示板の先へ進んでいってみた。大川の滝くらいまでは行けるだろう。有名な観光スポットだし。

               

大川の滝

予想通り、大川の滝までは問題無く辿り着いた。
駐車スペースには既に3台ほど先客のクルマが停まっている。
滝壷への遊歩道の入り口には、アクセサリーを売る軽トラまで停まっていた。

 
滝は非常に大きいようで、クルマを停めたその地点から既に、その存在感を感じ取れるほどだった。
滝壺に近付くにつれて、その圧倒的な水量と迫力が露になってくる。

豪快だった。目の前の岩壁上から莫大な量の水が一気に落下し、滝壺に叩き付けられ、轟音を発している。

その滝壺には柵が無く、ごろごろと転がる岩に飛び移りながら、どこまでも近くまで寄っていけた。
滝壺に近付くほど、細かい水飛沫が全身に降り掛かってくる。自然の芸術の迫力に、どこまでも引き寄せられた。

落差が88mの大川(これで「おおこ」と読むらしい。「千尋=せんぴろ」といい、一筋縄ではいかない屋久島の滝)の滝は、屋久島で一番大きな滝だという。

   
                     
   
一番大きいというのを落差だけで計るのが良いのか悪いのか、という議論はあるが、そうでなくともこの滝は屋久島を代表させるに相応しい力強さと、落ちる姿の美しさを持ち合わせていた。

上部で二手に分かれ、左側の本流に対して支流の右手の滝がまた、滝を一枚の絵として見立てた時の姿の美しさに一役買っているのだ。支流は落下途中に至る所で岩に打ち付けられ、末広がりにシャワーカーテンとなって落ちていく。

優雅なウォータースクリーンと本流の豪快な水流が絶妙のマッチングで、素晴らしいシーンが目の前に展開しているのだ。

 
立ち去るのが惜しくなり、いつまでもそこで、滝のすぐ下で、いつまでも眺めながら語りかけていたい気持ちだった。
   

・・・・・・・

西部林道

県道に戻って、さらに奥へと進んでみる。2車線を保ったまま、険しい地形となって海に落ち込む海岸線を快走する。道路はストレート主体にどんどん高度を上げていくような豪快な走行フィーリングで、西部林道というルートの険しさを忘れてしまいそうなくらいだ。
しかし、ざらついた路面や消えかけた白線が、辺境へと誘う道を連想させる。

道路の真ん中に堂々と居座るヤクザルも登場。アスファルト上にぺったりと座り込んで、ノミ取りに勤しんでいる。 それも群れをなして数匹まとまって座り込んで、クルマが近付いてくるまで全く動じず逃げるような仕草すらしない。

屋久島西部は、人間の生活エリアからは完全に外れているので、野生の動物たちが主役を張っているようだ。
それまで周遊道路を走っていても動物に遭遇することは無かったのに、西部林道に差し掛かった途端にウジャウジャ出てきた(汗

ヤクザルだけではない、ヤクシカも猿の群れに混じって道路上に突っ立っている。こっちは宮之浦岳で遭遇した時と同様に、こちらを凝視した後、ある距離まで詰め寄ったら一目散に逃げていくのだが。

居座るサルとシカをよけつつ深入りしていくと、突如道はセンターラインを失い、いきなり森の中の狭路へと変貌を遂げた。結局ここまで至っても、強制的に通行を妨げるゲートはついぞ存在しなかった。

ここまで来て行けそうな道を引き返すのも勿体無さ過ぎるので、そっと入り込んでみることにした(- ^;

狭路に入ってすぐに、通行止めの意図は判明した。

いくらかも幅のない路面には、昨日の台風によって振り回され落下したおびただしい量の枝や葉が散乱し、アスファルトを覆い尽くさんばかりの惨状が待ち受けていたのだ。

道が狭くなるまではキレイだったのだが・・

狭路になると、すぐにこうなってしまった

避けようにも避けて通るスペースも無いので、微低速でゆっくり踏みしめながら通過するしかない。
場所によって散乱具合にかなり差があるが、まるで未舗装の林道を走るかのような悪路と化していた。

それがわかったなら無理に入り込むべきではないのだが、どれだけか入り込んだ所で、道路の散乱物を清掃している重機と清掃員が動いているのに遭遇した。

狭い道路でブルトーザーがゴリゴリと路面の枝葉をかき取っている。すれ違いには向こうの仕事を一旦休止してもらう必要があり、通行止めの区間に入り込んでいることもあって、こちらとしては結構気マズかったが、作業員は重機を寄せて丁寧にすれ違いを可能にしてくれた。(さすがにその様子を撮影するのは躊躇われた)

   
 

軽く会釈して通過すると、掃除が済んだその先の路面はきれいに片付いていた。(すぐに落石落葉は現れてきたが)

無難に通してもらえたので、ここで引き返すという選択肢ももう無くなり、とにかく行けるとこまでいくということになった(^ ^;

狭い森の道は斜面に沿って延々と続く。ブラインドとなるコーナーを抜けた先に、ヤクザルが何十匹と座り込んでくつろいでいる場面に出くわす。サル達は人(クルマ)が向かってきても無関心で、こちらに視線を送りながらもその場を動こうという素振りすら見せない。
こちらとしても平和に通過したいので、逃げ出すのを待ちつつ低速で近寄っていくが、それでも退く気配無し。
 

まったくフテブテしいサルどもではあるが、元々この辺り一帯は、彼らのテリトリーなのである。
そこにたまたま道が1本通っているから遭ってしまうわけで、その辺りの前提を忘れてはいけない。ここは自分達の住処ですが何か?、というサル達の意思表示なのだきっと。

とはいえ、通してもらわないとこちらも困るので、もうこれ以上進むと当ててしまうってとこまで近寄ったところで、エンジンを軽く吹かし無限サウンドでソフトに(!?)威嚇(^ ^;

音にはすぐに反応して、すぐさまクルマから離れるサル達。そこのけそこのけS2000が通る・・・と偉そうなことは言わずに、ちょっと失礼いたしやす~ってなカンジで、いくつもの群れを見送ることになった。

これがヤクシカの場合、こちらの音には敏感で、じっと凝視した後にすぐさま崖下、あるいは森の中に姿を消す。彼らの場合は手を焼くことはまずないのだが、逃げ足が速過ぎて、運転席からでは写真に収めることができない。

まぁそんなこんなで、とにかく野生動物の気配が濃い。今回訪れた屋久島の中でも、動物遭遇率が圧倒的だったのが西部林道だった。それだけ人との棲み分けができているってことなのだろう。
ただ、徐々に彼らのテリトリーも狭くなってきているとのことだが。。。(島の固有種であるヤクザルとヤクシカは、島の人口同等かそれ以上生息しているとか)

西部林道は、アジア随一とも言われる屋久島の原生照葉樹林帯を抜ける唯一の道路である。

照葉樹林とは、常緑広葉樹のうちのひとつで、光沢のある小さな葉が多くもっている木のこと。
まぁ見た感じ特に何てことのないよくある森なのだが(^ ^;)、それが原生の状態で太古の昔から変わらず存在しているのがこの場所なのだ。

世界的にもこの規模の原生照葉樹林は珍しく、だからこそ屋久島が世界遺産に登録された際、唯一西部林道が通るこのエリアのみが、海岸まで指定範囲に入ったのだ。

その世界的に認められた森の中を疾走するS2000。ジャマする者は(サル以外は)誰もいない。

大きく広がった樹木の枝葉が、幌の代わりに常に頭上を覆っている。 森のトンネルは深く、現実から遠く離れた世界にいるような錯覚に陥らせてくれる。それが何とも心地良い。

   
森の中を疾走する野生動物の一員になったような気分で、トンネルを抜けていく。
普段はこの森とは遥かに縁遠い都会のコンクリートジャングルで生活しているのに、何か奥深くで繋がっているような、そんな不思議な意識が芽生えているのを感じた。

台風の影響で所々路面に落ち枝葉が散乱してるし、ブラインドコーナーの先にはヤクザルがノミ取り中だったりするので、ワインディングを思いっ切り突っ走るわけにはいかない。

けれども、それとは趣の異なった楽しみ方ができるのが、この西部林道である。

   
半山というエリアで、小さな沢を何本か橋で渡る。この辺り一帯の森もまた素晴らしい。
新緑の季節に訪れたならば、今よりも更に美しい景観を見せてくれることだろう。
   
   
半山を過ぎると路面が良くなり、道幅も広くなって久々に4速に入ったと思ったら、ゲートが目の前に現れた。(通行止ってこと完全に忘れてた(汗)

おいおい、ここから引き返すのかよ~と思いつつ、走行できたとはいえ通行止を事実上強行突破してきた体面上、諦めるしかないかと一瞬思ったが、よくよく観察してみると、ゲートは固定式ではなく仮設だった。

大きな声では言えないが、一旦道路脇にずらさせていただいて、エスを通過させた後に元通り復旧。
めでたく通り抜け完了で、一件落着なのであった(^ ^;;

   

屋久島灯台(永田灯台)

その仮設ゲートは、灯台のある岬への入り口に設けられていた。岬へと続く枝道へと入っていく。
突端には白亜の灯台。屋久島灯台という表示がなされている。灯台そのものは、特に特筆すべきものは何もない感じだった。岬の先に広がる海の向こうに島が浮かんでいる。口永良部島だろう。

口永良部島は屋久島町に属し、船は屋久島からしか出ていない。そういった意味では、屋久島以上に遠い、遥かな秘境の離島である。

 
元の道に戻って急坂を駆け下りていくと、やがて永田の集落へと辿り着く。
この辺りまでが西部林道に当たる。狭い上に距離もあって、非常に走りがいがある。というか、かなり冒険的なルートだ。
   

静かな永田の町を通過する。
永田は島の北西端の集落であるとともに、海岸沿いにある島の集落で唯一、島の中心部の高山が見える集落でもある。

宮之浦岳を最高峰とする屋久島の「洋上アルプス」は島のほぼ中心部にあり、その周囲を中程度の山に取り囲まれているので、海岸の町からその山々の姿を見ることができない。唯一、永田からは同じ名を冠した永田岳が見えるという。(うっかりそれを確認するのを忘れてしまったが)

宮之浦岳の頂上から眺めた景色は、確かに周囲の山と海ばかりで、海岸線はまったく見えなかった。
ということは、屋久島の海岸から宮之浦岳は眺めることができないということなのである。

         

永田の集落を通過してすぐにある「いなか浜」。白砂の海岸が美しいことで有名な場所だ。

既に台風一過の晴れ間はどこへやら、上空は雲に覆われてしまい、青と白のコントラストの美しいいなか浜の海岸は、想像の景観とはかけ離れた色彩だった。

 
   
この辺り一帯の海岸には、初夏にウミガメが産卵に訪れることでも有名だ。
 
いなか浜を発ち、海沿いの県道を島の北端目指して走り出す。
西部林道は抜けたので、道路は幅広の2車線となり走り易くなった。海沿いのコースは砂浜から徐々に登って崖上に至る。爽快なワインディングロードを気持ち良く走っていくと、島で一番北に位置する一湊の町まではあっという間だった。
 

一湊

県道は一湊(「いっそう」と読む)の集落の中を通り抜ける。バス停に停まった路線バスを追い越すのにも注意を払う。
集落を抜けると公園があって、道路沿いに駐車場が設けられていた。

屋久島のフツーの町を歩いてみるのも面白そうなので、駐車場にエスを停めた。
公園は「布引の滝」という滝の前に設けられたもので、広場にはトイレ以外の設備はなく、いかにもキャンプに最適そうだったが、キャンプ禁止という看板がしっかりと立てられていた。

一湊の港に向かい歩いていく。町は一湊川の河口を中心に広がっている。
後で気付いたのだが、屋久島の集落名はその中を流れる川の名と同じで、さらにその川の名は上流の山の名と同じになっている(ことが多い)

永田→永田川→永田岳、一湊→一湊川→一湊岳、宮之浦→宮之浦川→宮之浦岳、安房→安房川→安房岳、栗生→栗生川→栗生岳、とかとか。
川が入り組んでいるので、少なくとも山との繋がりはほとんど感じられないのだが(町から直接見えるのは永田岳だけだし)

   

一湊川沿いには倉庫のような建物が建ち並び、魚を燻すいい香りが漂っていた。屋久島名産のサバ節を加工する工場が密集しているのだった。

河口には比較的大きな漁港があり、作業している漁師たちの姿も見える。穏やかな空気が漂う港町の風景。
集落の中の道は狭く、クルマが1台やっと通れるほどの幅しかない。公民館や小さな商店の前を通り過ぎ、集落の西側までやってくると、1本の印象的な通りに出た。
                     
 

それまでの狭い道とは異なり、町のメインストリート並みの広さと、何と言っても道路の両脇にうじゃうじゃと茂る樹木の波に目を奪われる。

この並木は、何とガジュマルの木。
そのオドロオドロしい姿の奇木が、住宅の前に並木状に立ち並んでいる様は、何とも不可思議な感じである。

ガジュマルとアスファルトとカーブミラーの組み合わせがシュールだ。
誰が置いたかベンチも設置してあり、ガジュマルの存在によって道路が公園化したような雰囲気になっている。

   
                     
   

このガジュマル通り、短くてささやかなものだけど、ごく普通の港町に不思議な魔法がかけられたような空気感を醸し出していてイイ感じ。

エビス様が祀られた小さな社もあって、とても雰囲気が良かった。

   
 

30分そこそこの、屋久島普段着の町散策を経て、再びエスで走り出す。

一湊を出てすぐに、今度は志戸子という小さな集落を通過する。集落の入り口にでかでかと「志戸子ガジュマル園」という案内板が掲げられてたので、とっさにその方向へ。港を通過し、海っぺりの堤防沿いに、ガジュマル園はあった。

 

志戸子ガジュマル園

先ほどは町の並木になっていたガジュマルの木を、密林状態になっている状態で鑑賞できるのがこの志戸子ガジュマル園らしい。ガジュマルという響きが先入観的に南国ちっく(笑

ここは迷わず入園料200円を払い、早速中へ。

園内は歩道は設けられているものの、ほとんどジャングル状態。のたうち回るようにウネウネと曲がる枝、幾重にも分裂して網目状に這う枝、溶けて垂れ下がっているかのように見える無数の細い幹。その姿形はまるでモンスター。グロテスクなことこの上ない。
ガジュマルは別名「絞め殺しの木」とも呼ばれるらしい。他の木に取り付いて成長し、相手の幹に絡み付くように枝を伸ばして大きくなり、最終的には取り付いた木を絞め殺してしまう。まさにモンスター。まるで森の殺し屋である。
ただガジュマルの立場からすれば、進化の過程で種を存続していくにはそれが一番適していた、ということでもある。
生きて子孫を残すために、必死に他の木に取り付き、気根と呼ばれる根を垂れ下げ、地面から養分を吸い取って成長していく。
取り付かれた木が死んでしまうこともあるし、抵抗にあって共倒れすることもある。存続していくために必死な生物たちの姿がそこにはあるのだ。

そう思うと、単なる観光園以上の深みが感じられる。園内はさほど広くなく、原生のままのガジュマルたちの姿をじっくり観ることができる。
ただジャングルなので、やたら蚊が多いのには参った。受付に置いてある虫除けのウチワを借りるのは必須である(笑

・・・・・・・

     

志戸子を出ると、間もなく宮之浦に到着した。最初にフェリーで降り立った、島の北東側にある屋久島で一番大きな町である。

昼は既に過ぎていて、かなり空腹を感じていたので、フェリー乗り場に近くで一際目立つ環境文化村センターの1階に見つけた「Bay's Cafe JANE」というオシャレなカフェでランチ。

オーダーしたのは特製カレー。爽やかな港の雰囲気が溢れる店で、ひとときのコーヒーブレイク。

 
     

その後は宮之浦から安房、尾之間と、島の東側半分を一気に走る。この区間は初日からやたら走っているので、本日はすっ飛ばした。

尾之間を通過して数km走り、島の南端近くに差し掛かった辺りで、周囲にコレと言って何にもない所に「平内海中温泉」の案内板が出てくる。それに従って枝道に入っていくと、磯に降りていく細い道が現れ、2~3台しか停まらない小さな駐車スペースが。
そこは一杯だったので、手前に路駐して磯に下りていくと、意外と豊富な屋久島の温泉の中でも群を抜いて有名な野湯に出会うことができた。

 

平内海中温泉

その名の示す通り、海の中にある温泉。というのはちょっと語弊があるかもしれない。波打ち際に湧く源泉が岩の湯船で入浴できるものの、それは干潮の約2時間前後だけで、あとは水没してしまうってこと考えると、確かに「海中」温泉かも。
だから来てみたって干潮付近でないと体感はできないのだが、幸運なことにまさに今が干潮だった(^ ^
温泉クラブ的に(?)この機会を逃す手はない。当然ながら入浴を試みることにした。

先客多数のため(平日の昼間なのに)、写真撮影はできなかったのでご想像にお任せするが、海に近いというよりは海と一体化した温泉とはこのことだ。海面と湯面がほぼ同レベル。湯船は岩に囲まれているため、大きな海を視界いっぱいに広げながら、というのは無理だが、波のタイミングによっては海水が湯船に流れ込んでくる。

そのためか、湯温はかなりヌルい。自然の産物なので、こういうもんだと思って味わわなければならない。長湯はいくらでも可能。そう言えば島の南側はいい具合に青空が広がっていたので、どっちかってゆーと頭の方が熱い(笑
しかし、この海との一体感は格別である。

温泉の状況は、この写真からのご想像にお任せします(^ ^;

南国の島と温泉はあまりイメージ的に合わないが、実は屋久島は温泉天国である。
島の海岸部にいくつかの良質な温泉が湧いている。最初に訪れた尾之間温泉が素晴らしく、今回の旅の間は定宿ならぬ「定湯」として利用したので、尾之間とこの平内海中温泉以外は訪れなかったのだが。
               

平内海中温泉の後は、キャンプ場のある栗生方面に向かってエスを走らせる。

屋久島一周は約100km程度なので、単純に走るだけならもっと早く一周できたかもしれない。
しかし寄り道は当然ながらいろいろあったので、実際は出発点とした栗生まで、ほぼ1日がかりになりそうだった。

                 

その栗生の手前の中間という集落で、またしても寄り道。

「中間のガジュマル」という表示につられて集落内に入っていくと、川縁に堂々と根を下ろす大きなガジュマルが。

民家の入り口を塞ぐようにして、網目状に気根を張り下ろすガジュマルが圧巻だった。
通行できるように門型に切り取られている。まるで1本でジャングルを形成しているように見えるほど巨大だ。


中間の集落から、細い道を山の方へ分け入っていく。フルーツガーデンなる施設がこの先にある模様。
と、その細い道でマイクロバスが1台対向してきた。道路脇に避けてすれ違うのを待っていると、突然頭上から陽気な声が。。

「やぁ、こないだはありがとね~」

どこから誰に言われたのか一瞬わからなかったが、バスが真横を通過する時に、運転席から顔を出す運転手を見て理解した。
宮之浦岳から下りてきた後、荒川登山口から淀川登山口まで乗ったタクシーの運転手その人だった。

別れ際の言葉通り、本当に再会してしまった。そして言葉にウソはなく、よく覚えてくれてたものである。(淀川でエスを見てるとは言え、一瞬だったにもかかわらず)
ほんと何てことのないことなのだが、その後が何となくハッピーな気持ちになる。限られた土地の中で完結している離島ならではの出会い。。
島の旅を一層思い出深いものにしてくれた、相変わらず楽しそうに運転している運転手氏に感謝したい。
 

屋久島フルーツガーデン

中間の集落から案内板に言われるがまま山の中に分け入っていくと、10台くらいは停められる駐車スペースと共に忽然と現れたフルーツガーデンの入口。

小さな集落から更に離れた場所で、平日の夕方だというのに、他に来客がいるようだ。つくづく屋久島は立派な観光地である。

 

ジャングルの入り口のようなゲートをくぐって歩いていくと、そこは本当に南国のジャングルの如き植生に囲まれた異質な空間だった。それまで周囲はごくフツーの荒れた山中といった感じだっただけに、極端な変わりようだ。
少し歩くと、受付と思わしき小屋が見えてきた。

この小屋が、本当に南国のヴィラのような雰囲気だった。そしてそこに入った瞬間、懐かしい気分になった。
こんな旅ばかりしている自分も、実はかつて南の島(国外)でバカンスを送った経験があるのだ(驚

その時滞在したヴィラの空間に通じるものがあったのだ。それだけでこのフルーツガーデンなる施設が妙に気に入ってしまった。

 
入場料?を払うと、受付のおばさんがおもむろに誰かを呼び出す。どうもガイドが付くらしかった。
聞けば、ガイド付きで敷地内を15分ほど散策して、その後試食タイムが設けられるとのことである。
 
「試食タイム」とはすなわち、ここは「フルーツ」ガーデンなので、そこで栽培されたフルーツが提供されるということらしい。
 

ガイドのおじさんは、その語り口が耳について離れないような個性的な口調で案内を始めた。話の内容より、その口調の方が特徴的で気になってしまう(^ ^;

がんばって思い出してみると(笑)、園内に植樹され栽培されている南国の様々なフルーツのなる木を説明するというものだ(まぁそりゃそうですが)。中にはモンキーバナナのような知ってるものもあるが、ほとんどは聞いたことのないような樹木であり果実だった。

園内がずいぶん荒れてるなと思ったら、案の定昨日の台風で樹木がたくさん倒れてしまったそうである。まだ青いバナナとかが地面に散乱していた。
とりあえず今日は、遊歩道を歩けるように掃除しただけだと、ガイドのおじさんは語っていた。
             
                   
一周を終えて最初のヴィラ(?)に戻ってくると、試食のフルーツが出てきた。今見てきたものもあるがそうでないものも混じっている。試食用のフルーツは事前に確保してあるようだ。  
                         
   
ひとつひとつ味わいながら大切に食べた。フルーツの他にも、果物から作ったジャムも試食で出てきた。
どれも美味しかった。割とコストパフォーマンスの高い観光園と言える。(500円/人)
今回ガイドしてくれたおじさんは、このフルーツガーデンの園長さんだったらしい。
・・ということは後になって知ったことで、ただただその語り口が気になる名物ガイド、って印象が強く残ってしまった(^ ^;
 

・・・・・・・

フルーツガーデンを後にした頃は、既に夕方になりつつあった。
栗生の隣の集落である中間に来ていたが、一旦尾之間に引き返すことにする。目的はもちろん温泉である。(平内海中温泉は浸かっただけなので)

この日も訪れたのは尾之間温泉。既に3度目の入浴になる。屋久島での入浴はここ尾之間があれば十分と思えるほど気に入っている。1回200円と格安だし、鄙びた共同湯の雰囲気と、何と言っても抜群に新鮮な泉質が嬉しい。
この日は時間が遅かったので混んでいた。地元の人ばかりである。

     

入浴の後は、これもお決まりのコースでAコープ尾之間店。

滞在型のツーリングは初めての試みだが、こうやって毎日(と言っても3回目だが)同じ温泉に入って同じスーパーに寄ってを繰り返していると、多少なりとも地元の生活に密着して旅を楽しんでいるような感覚になれることを知った。
これはこれでとても心地が良いものである。

帰り道は、西の空、ではなく海に沈む太陽を眺めながらの、贅沢なオープンドライブになった。

温泉に入りたての爽やかな気分で、海風に身を任せながら、ルーフを開け放った愛機S2000を自由自在に操り駆け抜けていくという状況に、至福という言葉以上の快楽を感じる。

 
 

それだけでも屋久島に愛車で来る価値があると思った。愛するクルマと共にこの時間が共有することで、その時間がより豊かなものとして感じることができるのだから。。

台風には遭ったけど、ここまで来て本当に良かったと思えた瞬間だった。(まだ帰っちゃうわけではないのだが)

 
 
5日目 / 7日目