■幻想的な森を歩く


7日目の朝は、宮之浦岳に登った2日目のように登山の支度をして、早朝の早い時間に出発。この日は、宮之浦の町から山に分け入った所にある「白谷雲水峡」という場所で、ハイキングを楽しむことにしたのだ。

今日のは宮之浦岳のように途中で泊まるわけではないので、日帰り用の軽装備である。
とは言え雨の降る島、屋久島のこと、いつ何時雨が落ちてくるかわからない。ザックの中にはレインウェア(既にズボンは使い物にならなくなってるんだが(笑)にザックカバーはもちろん、防寒具の類いから途中森の中での昼食を楽しむための準備も怠りなく。 それでも、本格的登山だった宮之浦岳よりは気が軽く、歩き切れるかという心配もすることなく、エスで登山口へと向かった。

                                           
 
                                           

宮之浦から県道594号白谷雲水峡宮之浦線に入り、島の中心方向に向かって山を駆け上がっていく。整備された2車線路は、思いのほか本格的なワインディングロードだった。
途中工事で車線規制があったりする以外は、スカイラインと称してもおかしくないほどの高所感溢れるワインディングロード。低速コーナーからリズム感のある中速コーナーの連続まで、バリエーションも豊かだ。

宮之浦から約12kmほどの距離しかないが、ワインディングは感覚的には結構長く続く。白谷雲水峡まであと数kmの地点で道路は狭くなり、バスが通るとすれ違いが難しくなるほどになる。
目指す白谷雲水峡の看板が見えたのは、ちょうど朝の7時をわずかに回った頃だった。

クルマで白谷雲水峡に直接アプローチできるこの県道は、常時夜間通行止ということになっている。何時から何時までの間が通行止なのかまでは未確認だったので、適当に予測し、7時ちょうどに到着するようスケジューリングしてやってきたのだ。

駐車場にはクルマはほんの数台が停まっているのみ。それなりに広い駐車場だが、縄文杉に次ぐ人気のトレッキングコースであることを考えると、すぐに飽和してしまいそうだったので、朝イチに訪れたのは正解だろうな。

エスを停めてトレッキングシューズを履き、仕度を整えて出発・・・の前にトイレ(^ ^;
これから原生の森に入るのだから、途中トイレは無いと思った方がいい。

森の入口にある白谷雲水峡の看板はヤクザルに占拠されていた。
構わず記念撮影を試みた後、向かいの管理事務所へと行くが、まだ中に人はいなかった。

白谷雲水峡は公園などではなく、山と同じく自然そのままの中を歩く場所なので、入場料とかそういったものは必要がない。ただ、環境維持のための協力金と称するものを300円/人お願いします、ということになっていた。
募金箱のようなものがあったので入れようとしたが、あいにく小銭を切らしていたので、帰りに直接支払うことにして、そのまま事務所前を通過して森の中へと入った。


白谷雲水峡は標高約800mに位置し、白谷川を中心とする原始林が広がっているエリア。島の玄関口である宮之浦の町から近く、路線バスが通っていながら、屋久島の原生林がハイキング的に手軽に楽しめるということで人気があるようだ。

確かに、もっとも人気のある縄文杉日帰り往復トレッキングは、数日前に紹介した通り内容的には立派に登山であり、そのスケジュールは登山の常識からすればかなりハードな部類だ。
その点白谷雲水峡は、そのエリア内にいくつかコースが設定されていて、それぞれの時間や体力に応じてコースを組み合わせて楽しめるようになっている。宮之浦岳や縄文杉など、絶対的な到達点が無い(細かいものはあるにせよ)ので、その分気楽に感じるのである。
本格的登山までしなくとも屋久島を楽しみたいという向きには最適な場所、と言えるかもしれない。

とは言え注意しなくてはならないのは、白谷雲水峡ハイキングだって自然の山中を歩く立派なトレッキング行為であり、舐めてかかると痛い目に遭う可能性だって十分に考えられるということである。
エリア内は、決められたコース以外は歩くことができない。自然保護の意味が大きいが、コースを逸脱すると簡単に遭難してしまうほど深い森でもあるのだ。
そういったことを考慮し、もしものことを考えて装備品を用意して、事前に行動計画をすることは、たとえ手軽というイメージで売り出されているここ白谷雲水峡でも絶対に必要なことだ。

さて、その事前の行動計画としては、まず「弥生杉歩道」を歩き、「原生林歩道」を歩いた後、白谷小屋から「もののけ姫の森」を通って辻峠に至り、最後に太鼓岩を目指すというもの。白谷雲水峡に設定されたコースの中では、もっとも距離があり時間がかかるコースでもある(^ ^;

まずは「弥生杉歩道」(屋久島ではどうも「登山道」のことを「歩道」と表現するらしい)。管理棟から平坦な道を数百m行けば辿り着く所までを、山中を大きく迂回する効率の悪いコースである(笑

そこまでするのは、コースの名称にもなっている「弥生杉」と名付けられた屋久杉の巨木に会うためだ。
コースはほぼ全域で木道が設えられていた。原生の森を歩くという内容からすれば過剰だと思うが、歩き易いのであまり文句も言えない(- -;

登ったり下りたりが続いて、案外あっけなく弥生杉に出くわした。あまりにもすぐに着いてしまった(20分もかかっていない)ので、それがこのコースで目指す屋久杉の巨木だとは思わなかったほどだった。

縄文杉や大王杉と比べると、取り立てて大きな杉というわけではないが、根元で何本もの幹が密集しているような状態が特徴的な巨木だった。
周囲では異彩を放つ大きな樹木ではあるが、並み居る巨大な屋久杉の中では若者、という感じがしなくもない。

 
弥生杉からは、木道をひたすらに下る。もとのメインのコースに戻るまで、ちょうどいい準備運動になった。
メインコース合流後、すぐにさつき吊橋という鋼製の吊り橋が現れる。それを渡らずに直進する道が、原生林歩道のようだ。迷わずそちら側に足を踏み入れていく。
 

白谷雲水峡「原生林歩道」

原生林、というだけあって、それまで足元を護っていた木道は姿を消した。それだけでなく、どこが道なのか判然としない森の中を歩くという様相になった。

樹木の葉が空を覆うように茂っているので、草や薮が地表を覆っているわけでもない。どちらかというと地表の地肌が露出し、木の根が這っているような状態だ。だから余計に道が判然としないのである。

 
 

どこへでも歩いていけそうな状態なので、原生林歩道と言われてもどこが正確に登山道なのかは、結構注意していないと道を踏み外す可能性がありそう。

幸いコースを示すピンク色のリボンが枝に縛ってあったり、間違えそうな所にはロープが張ってあったりするので、いつも地形図とコンパスが必要ってほど全然わからないわけではないのだが。

どっちかってゆーと「お手軽」イメージが強かった白谷雲水峡だが、原生林歩道に踏み込みいくらか歩き出すと、道の行く先をヤマの勘に頼るような所もあって、どこがお手軽やの!と思いたくなった。

自分だってとことんヤマに入れ込んでいる人間ではないのだが、興味本位でいきなり原生林コースに踏み込んだら、結構面食らうような気がする。
でも急激な勾配が続くシーンはそれほどなく、ゆっくりと森を鑑賞しながら歩けば、体力的に負荷がかかるような感じではなかった。そういった意味では、やっぱ「お手軽な原生林」なのかも(^ ^;

そうそう、今言ったようにこの原生林歩道、ワイルドな山道に迷わず歩くのもひとつの楽しみだが、まさにその「原生林」を楽しみながら歩くっていうのがやっぱ一番の魅力なのである。
過度な整備などなく、本当に森の中を地形に沿って歩いていく。木の根を越え、岩を飛び移り、沢を渡って斜面をよじ登る。森に住む動物同様に、森の中を闊歩するという魅力。そしてその行く先々で出会う屋久杉の巨木。

最初に出会った巨木には、「二代大杉」という名前が付いていた。
急な斜面を登った先に突然目の前に現れ、何かこちらに問うてくるような迫力があった。
赤茶色い樹皮は生気に満ちて、巨木ながらまだまだ現役の森の主という感じがする。
幹の周囲を舐めるように取り付きながら一周しても、あまりに大きな樹径は、目の前にしても樹木に対する一般的理解の程度を超えている。
その後も原生林の散歩道は続く。周りに人の気配は全くない。他にこのコースを歩いている人間はいないのだろうか。

白谷雲水峡のメインコースは、原生林歩道とは白谷川を挟んで反対側の「楠川歩道」という登山道であることは、登山地図を見れば明らかだった。

楠川歩道の方が直線的に山の奥深くに通じているし、アップダウンも少なさそうだ。
それに比べて原生林歩道は、対岸の山肌を大きく迂回するようにして設定されている。いくつも沢を渡るので、アップダウンも激しそうだ。

 
 
単純に白谷小屋の先にある「もののけ姫の森」に到達するには、どう考えても楠川歩道の方が近道である。できるだけ短時間に、疲れないで目的地に着こうというなら、楠川歩道を選択するのは当然のことである。
でもちょっと待ってと言いたい。
せっかく世界遺産に指定されるほどの屋久島の原生林を楽しめる白谷雲水峡を歩くのに、原生林をじっくりと楽しみながら歩くことができる原生林コースを歩かずしてどうするというのだ。

もちろん楠川歩道にも特有の魅力があると思うが、地図でコースを確認したところでは、原生林歩道ほど森の深淵に近付けそうなコースは無い。

当然ここは歩くべきと直感的に判断して計画した。それに共感する登山者がもっといてもいいのに。
でもそのおかげで、静かな森の空気を独り占めできてしまっているのだが(^ ^)

 
   

そんな原生林歩道に沿うて、原始的な森の中を延々と歩き続ける。それでも全く飽きることはない。

         
 
         
    こんなにも純度の高い自然の中を、自らの判断で道を選び(コースではあるが、わかりづらい道なので敢えてこう表現しておこう)、幾多の樹木と出会い、そのひとつひとつと対話しながら進むことは、何にも代え難い貴重な体験だと思うのである。
         

時には沢も渡る。当然橋など存在しない。

もちろん「コース」ではあるので、岩を飛び移ることで向こう岸に辿り着けるようにはなっているが、その岩を選択し、飛び移るルートを開拓するのは自分自身である。
判断を間違えれば行き詰まってしまうし、透き通った水の中に足を突っ込んでしまうこともあるだろう。

しかし、そういった判断そのものが楽しいのである。与えられた道や構造物を行くのではなく、自ら道を切り開き歩を進めていく。 大まかなルートは示されているが、その範囲内で、道を選択し進んでいくという行為。

それはとてもプリミティブな感覚だ。

山を登ることの魅力は、プリミティブな行為によって本能的な何かが呼び覚まされることだと、何年か前に気付き、今でもそう感じている。

それをいつもよりも強く感じることができる。目的も無く森の中を歩いているだけでも、その行為自体が本能を満たしてくれる。

今まで登った山とどこか違った宮之浦岳の登山途中にもそんな感覚があったが、天候が良く体力的に余裕のある今は、余計にそれを強く感じていた。

 

びびんこ杉」や「三本槍杉」など、固有名称のつけられた屋久杉の巨木がコース上に点在している。

そのどれもが素晴らしく、森の賢者の如く何かを語りかけてくるようだったが、もうひとつ、原生林歩道の中盤辺りから目立ってきたもの。その存在に目を奪われるようになる。
それは、森の色を変えていく(コケ)だ。

 

地表はもちろん、倒木の幹や岩肌にまで張り付く苔は、屋久島に訪れるまで持っていたジメジメした陰気な印象とは異なっていた。

雨が降りまくる気象条件のもと木々の陰に隠れて育っているのだからジメジメしてるのには違いないが、触るのを躊躇ってしまうような陰気さは無く、どちらかと言えば美しい緑の植物が一面に植生しているかのように見えるのだ。

小さな谷間を緑に染める苔の群生も、美しい緑の絨毯のように見える。
倒木に生える苔に近付いて見れば、その小さな葉の1本1本が美しく濡れて光り輝いている。
苔がキレイだと感じたのは、生まれて初めてかもしれない。おそらく屋久島に生えている苔は、本州で見るそれとは根本的に種類が違うのだろうけど、同じ苔でもここまで美しいと感じることに驚きを覚えた。

三本足杉」周辺以降の森を覆う苔に、特に見入ってしまった。
間近に観察できる苔を、いろんな角度から眺めてみる。小さな小さなその葉には、押さえるとじゅっと音がしそうなほど潤沢に水分が含まれている。

些細なその現象に生命を感じる。
屋久島の森は、苔によって地表に栄養が蓄えられることで、太古の姿を今に残しているのではないだろうか。

奉行杉」を始めとするスギの巨木にも苔が張り付き、深い緑色の陰影を創り出していて美しい。
森の奥へと進んでいくにつれ、徐々に苔に包まれていくような感じがした。

 
・・・・・・・

原生林歩道は結局、2時間程も歩いたところで、楠川歩道に合流した。

白谷小屋の方向指示看板に従って進んでいくと、根が地上に現れ、幹が宙に浮いたような「くぐり杉」に出会う。幹の真下を通り抜けることのできる巨木で、空洞となった幹の真上を見上げた時の森の風景が美しい。

それを過ぎるとすぐに白谷小屋が見えてきた。

 

ここで小休憩を取った。行動食のナッツを頬張り、紀元杉の前で汲んだ水を飲んだ。

楠川歩道上にある白谷小屋前にいると、さすがに人の往来はあった。
結局、原生林歩道では2時間の間、誰とも会わなかったことになる。もっと言えば、その前の弥生杉コースでも誰とも会わなかったので、白谷雲水峡に入って3時間くらいして、ようやく他のハイカーを間近に見たことになる。
白谷雲水峡に入ったのは、結構最初の方だったと思うので、時間のかかる原生林歩道を歩いているうちに、楠川歩道を歩いてきた人たちに追い付かれたのだろう。

白谷小屋前を出発し、すぐに「七本杉」の横を通過すると、そこからは「もののけ姫の森」と呼ばれるエリアになるようだ。
読んで字の如く、宮崎駿映画「もののけ姫」の舞台、というかモデルになった森、ということになっている森。残念ながら映画の内容はよく思い出せないのだが(^ ^;)、たしかコダマとかいう精霊が出てくる森。見たことのある人に言わせれば、あの森そのものがここからの白谷雲水峡の森なのだそうだ。

 

もののけ姫の森

その神髄をいきなり目の当たりにすることになった。
苔に覆われた森。生きた樹木も倒れた樹木も、すべてが一様に緑色と化し、別の生命が宿っているかのよう。。

森を覆うグリーンは単色にも見えるが、見る角度と光の当たり方で様々な色の濃淡を見せてくれる。
その森のまっ直中を歩いていく。。。

白谷小屋から辻峠までの道は、原生林コースの延長のようなワイルドな道が続く。

その傍らには、苔の森。そして目を引く巨木の切り株。
長い長い年月を経て、苔に覆われた切り株は、廃墟を思わせる儚さが漂っている。

ただ、その光景は自然に還っていく過程であり、森が森として在り続けるためのサイクルの一環なのだとも思う。

           
実感不可能なほど長い年月の、ほんの一瞬の風景を目の当たりにしているだけなのだが、この森が歩んできた気の遠くなるほど長大な時間に少しでも関われたことが、何となく嬉しい。  
           
                                         
辻峠までの森の中の道は、明らかな勾配を伴って高度を上げていく。
水たまりが多く、道は悪い。ただ、次々と現れる巨木と苔の森の風景に目を奪われ、道の悪さなんてまったく気にならない。
                                         
                                         

・・・・てゆーか、この美しさは一体なんなんだ!?(@o@;)

 

目に止まったものを立ち止まって眺め、また立ち止まり、を繰り返しながらゆっくりと歩いていく。
周囲を取り囲む景色に感性の処理が追い付かず目眩すら覚えながらも、辻峠に到着した。

辻峠は楠川歩道上の峠で、この峠を先に(南に)行くと、小杉谷の楠川分かれで縄文杉への登山道であるトロッコ道に合流する。峠から約1時間の道のりだ。

そちらには行かず、峠から左に折れ、急激な斜面をテープを頼りに登っていく。それまでのハイキングコースから一転して胸を突く急斜面だが、それまでほとんど登山らしい登り道はなかったので、ずいずいと登ってやがて頂点へ。。

そこにはウワサに違わぬ絶景が待っていた。

森の中の急坂を登り詰めると、大きな岩の上に出る。
岩の上に歩を進めると、周囲の樹木が視界から消え去る。

そしてその先には、まるで上空から撮影した映像をスクリーンで見ているような、ビッグスケールの絶景が広がっていたのだ。

 

太鼓岩

眼下に果てしなく広がる森、森、森・・・
谷間には水量豊かな渓流が、ごうごうと音を立てて流れている。斜面となった地形の頂点には雲がかかり、頂を認めることはできなかったが、方角的にはおそらく宮之浦岳も見えるはずだ。

 

あまりの絶景とその迫力に言葉を失う。
その絶景が岩舞台のような、1個の岩上から何の柵もなしに直接見渡せることが、余計にその絶景に拍車をかけている。足を滑らせると、もちろん眼下の森へ真っ逆さまだ。
屋久島の森の上空へと突き出した、まさに岩舞台である。

24mmレンズではその広がりと迫力を全く写真に収められないのは悔いが残るが、恐ろしい程のインパクトによって、自分の記憶の中にはしっかりと刻み込まれたような気がする。

太鼓岩と呼ばれる岩舞台は、雨の多い島の完全な山中に位置するので、雲に包まれ全く視界がないことが多いらしい。

そんな中、山頂までははっきり見渡せないものの、ここまで視界が広がっている状態を目の当たりにできたのはラッキーだった。
白谷雲水峡トレッキングの終点として、申し分のないポイントだ。

   

最初は独り占め状態で景色を堪能できたが、徐々に人が登ってきて、岩上が混雑し始めた。登ってきた人は皆、感嘆の声を上げている。
せっかくの絶景なので、この景色を楽しみながら昼食をとることにした。岩の端に腰掛け、ザックからジェットボイルとフリーズドライの食料を取り出す。

そんなに風はないにしろ、吹きっさらしには違いはないので体が冷える。フリースを着込み、スープを飲みつつパスタを食べた。ジェットボイル+フリーズドライの組み合わせは、荷物を減らしたい+食事はさっさと行いたい+だけど暖かいものが食べたいという時は非常に便利である。(事前にお湯を用意できれば、ジェットボイルをサーモスに代えると更に荷物の容積を減らすことができる)

狭い岩の上での食事だったので、周りで同様に昼食をとっている人たちの話が自然と耳に入ってくる。
岩の上に多かったのは、女の子単独のトレッカー。仕事を休んで屋久島に来たり、そもそもプーな状況で、これからどうしようかと考えるついでに来ているとか、どっちにしろワイルドで行動的な女の子たちである。
本州の山では大多数を占める中高年登山者の姿はあまり見かけない。白谷雲水峡では特に、自分より若そうな(汗)男女が大半だった。女の子のグループ、または恋人同士という組み合わせが多い。(なぜか男子グループというのはあまり見かけない(笑)

アウトドアブームで世界遺産、ミーハーな動機であったにしろ何にしろ、若いうちにこんな素晴らしい自然に吸い込まれておくのは、とても価値があることだと思う。書を捨て、街に出るより森に行こう。書も街も魅力的だが、森には普段触れることのない存在や風景があるし、森に身を置くことで普段考えないことを考えるというきっかけが与えられる。そういった環境に身を投じることは、若ければ若いうちにしておいた方がいいような気がするのだ。(同様に、走らせて楽しいクルマも若ければ若いうちに乗っておいた方がいいとも思う(^ ^;;

   
   

・・・・・・・


太鼓岩を白谷雲水峡トレッキングの終点と計画していたので、ここからは来た道を引き返すことになる。

   
   
辻峠までを一気に下りて、もののけ姫の森を引き返す形で歩いていく。苔の森の風景は、帰り道も充分に楽しむことができた。
 

・・・・・・・・・・

 
 

白谷小屋近くのコース上にある「七本杉」。
巨木の屋久杉ながら、若々しく生気に満ちている。根元に張り付く豊かな苔が装飾的だ。

白谷小屋を通過し、原生林歩道と楠川歩道の分岐点に辿り着く。
ここから帰路は、来る時通った原生林歩道とは反対岸の楠川歩道を選択した。白谷雲水峡のハイキングコースのメインルートである。それだけに、多くの人とすれ違うことになった。

 
道は平坦で、原生林歩道のワイルドさとは比べようもないが、それでも何カ所か、沢を渡る場面はある。
沢は苔に覆われ、その都度、張り付く苔の姿を観察した。また、沢の水をナルゲンボトルに詰め込むのも忘れない。
 
 

楠川歩道はその昔、小杉谷で切り出した屋久杉を、山麓の集落である楠川に運び出す運搬路として開かれた、歴史のある道である。

その名残として、道には石畳が敷かれている。
石畳と言っても、実態はある程度歩きやすいように岩を転がした程度のものだが、でも明らかに人の手が入っている印象を受ける。

実はこの石畳、楠川歩道が産業道路として機能していた江戸時代の頃のままの状態なのである。それくらいに歴史のある道。それが今観光道路として現役で使われているのだ。
時代背景によって機能は違えど、先人の苦労を慮って歩けば、旅の印象も一層深いものになってくる。

 
 
・・・・・・・
     

さつき吊橋で対岸に渡ると、白谷川の流れは急流になり、やがて滝のような激しい流れへと変化していく。

この辺りの急流は「飛竜落とし」と呼ばれている。
垂直落下する滝ではないが、岩と岩の間を跳ねるように落ちていく水流を、竜が飛ぶ姿に見立てているのだろう。確かにその呼称通りで、迫力のある光景だ。

長い飛竜落としが滝壺に吸い込まれたら、白谷雲水峡の入口は間近に迫っていた。
登山するほどでもないが、白谷雲水峡の雰囲気だけでも、というツアー客が付近に大勢いた。 どこまで行くのか、今頃から登っていく人もいる。

     

入口の管理事務所に付いたのは13:30頃だった。おおよそ6時間程度のトレッキングだった。

管理事務所には当然ながら既に人はいて、入る時払えなかった協力金を支払う。
それとは別に脇に屋久島自然保護かなんかの募金箱があったので、印象的な景色をこれでもかってほど見せてくれた屋久島へのお礼に、釣銭を入れておいた。

     

エスに戻ってザックを下ろし、シューズを履き替える。朝、周辺を占拠していたヤクザルの姿は既にどこにもない。その代わり、駐車場にはクルマとバスが溢れていた。
観光名所である白谷雲水峡に平日休日は関係がない。原生林歩道や太鼓岩でのひとときを考えても、朝一番で乗り込んできたのは間違いなく正解だった。


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県道白谷雲水峡宮之浦線のワインディングを、今度はダウンヒル。駆け下りて宮之浦の町に到着。
まだ時間には余裕があったので、フェリーターミナル近くの観光物産館みたいな所でお土産の物色をする。

今回の旅は、エスでキャンプツーリングであることに加えて、ヘビーな登山も同時に組み込んでいたので、エスのトランクには余裕がない(いつもそうだけど)。よってお土産など買ったとこで入るわけがないので、当初から宅配便で送るつもりだった。
宅配便の到着予定を訪ねると、東京へは午前中に送れば2日後の夕方以降到着が最速であり、島を出発する明日の午前中でも間に合うという計算になる。てわけで、今日は下見にとどめた。

屋久島の周遊道路を、宮之浦、安房、尾之間を走っていく。本当に何回走っただろうか(^ ^;)、もうすっかり地元の道気分である。

同様に、尾之間温泉も何度目だろうか。いつも同じような時間に訪れるので、同じような人に会うことになる。この共同湯も、たった数日間ながら、すっかり馴染んだいつものお風呂的な存在になってしまった。
そしてまた同様に、Aコープ尾之間店である。夕食と次の日の朝食の調達は、この店がヘビーローテ、てゆーか毎日ここである(^ ^;

栗生のベースキャンプに戻ったら、まずキャンプ場の延泊の手続きをした。台風の影響で、当初の予定より島の滞在期間を1日延ばしているためだ。

相変わらず誰もいないキャンプ場で夕食の用意をし、「三岳」に舌鼓を打つ。やがて辺りは暗くなり、屋久島最後の夜は更けていく。。


名残惜しい最後の夜は、穏やかで静かな夜だった。

   
6日目 / 8日目