
せっかく雲も晴れたことだし、ピークで昼食を、と算段したが、頂上では極寒の風が吹き付けてくる。
できるだけ穏やかな気流の場所を求め、北峰と南峰の間の平らな場所でランチとすることにした。

いくら景色がキレイでも、真冬の山ランチは寒さとの闘いが先に立つ。
歩いている時は汗もかかず寒くもない丁度良い感じのウェアリングでも、停滞の最中は寒くて仕方がない。昼食時は停滞用に持参する中綿のジャケットをアウターの上から着込む。
でも手先足先は冷たいまま。せめて身体には暖かいものをということで、サーモスで持参した湯で暖かいものを食べ、食後にはコーヒーを入れた。

空はすっかりと晴天になり、ピーク周辺の雪の森も光り輝いていた。
3年連続で1月の連休はスノーハイクをしていることになるが、間違いなく今回は、今までの中でも抜群に天気がいい。
前回のスノーハイクが、昨年2月の志賀草津道路なので、これで一応2連勝。
裏磐梯で吹雪の中を歩いたのが、既に若かりし頃の遠い過去のようで懐かしい(^ ^;

昼食後、北峰と南峰を結ぶ足跡に戻ると、それなりに往来があった道に人影がなくなっていた。
時間は正午を回っていたが、今ひとつ登り足りない。
そんな不完全燃焼な気持ちを抱きながら頂上に背を向ける。とりあえずはヒュッテまで、来た道を引き返すことにした。

実は北横岳には2つのピークがあり、それぞれ北峰、南峰と呼ばれている。
地形図によれば、南峰が標高2471.6m、北峰が標高2480m。
すっかり2つのピークの存在を忘れていたが、わずかに高い北峰へと繋がる足跡を発見して、早速もうひとつの絶頂へと向かった。

北峰も南峰と同様、遮るもののない絶景の舞台だった。
運良く雲が晴れ、キラキラと輝く白い世界を見下ろす極上の景色を楽しむ。
雲ひとつでドラマチックに移り変わる冬山の景色には、一瞬一瞬にその時しか見られない表情がある。

蓼科山も、南峰で眺めるよりさらに間近に迫って見えた。
記念撮影をしてるのは、毎年スノーハイクを共に楽しんでいる仲間の一人。
元々温泉クラブと称して、温泉に浸かるためにドライブしていた集まりが、ここ2、3年でなぜか登山部に・・・
でも下山後の温泉には相変わらずコダワリが(^ ^;

森の中に突如現れたのは、北横岳頂上に最も近い山小屋「北横岳ヒュッテ」だ。
八ヶ岳には数多くの山小屋が営業していて、多くが冬期も営業しているのだが、このヒュッテもその例に漏れず営業中だった。煙突の煙から連想する暖かそうな室内が、冷たい身体には恨めしい。
立ったままの小休止後、再び山頂に向けて歩き出す。ここまで来れば、あと少しでピークだ。
ヒュッテからの登山道は、更に勾配を増した。スノーシューのクランポンを斜面に蹴り込んで身体を引き上げていく。
ピークへと至る斜面は、頂上に立つための最後の試練に相応しい勾配が続いた。

北横岳頂上へは、歩き始めから約1時間20分ほどで到達した。
遮るモノが何も無い、吹きっさらしのピークには強風が吹き荒れていた。

噂に違わぬ超絶景。吹きっさらしなだけに、眺望もこれ以上無い迫力だ。
空の雲は勢いよく流れ、日陰と日向が交互に訪れる。陽の差す瞬間を待ってシャッターを切ろうとするが、風が強く冷たく、じっとカメラを構えることも難しいので、とりあえず見たまんま、シャッターチャンスは無視して記録に勤しんだ。

北側には一際目立つ整形の山、蓼科山が間近に鎮座していた。
その間に広がる深い雪を身に着けた樹海は、規則的でいて複雑な文様のように見えてくる。

そして南側の展望は、南八ヶ岳。
手前の縞枯山と茶臼山の遥か向こうに、天狗岳と思わしき山容が見えた。その奥にあるはずの硫黄岳、横岳、最高峰の赤岳は雲に隠れて見えない。
今立っている北横岳も八ヶ岳の一部。雲で隠れている峰の集合体もまた、八ヶ岳の一部。八ヶ岳山域の巨大さが実感できる眺めだ。
これで雲が晴れてくれれば、いうことなしなのだが。。

急激に高度を上げていく登山道を、スノーシューで踏み締めながら歩いていると、徐々に雲の切れ間が大きくなっていくのを感じた。
陽の光が差し、青空が視界を覆うようになると、着雪した森は一層の輝きを放つ。
その美しさには目を奪われるばかりだった。

再び森の中の道となり、深い雪の樹海を泳ぐようにして進んでいく。
道は相変わらず明瞭で踏み固められている。
ここまで明らかな道をトレースするのであれば、スノーシューはあまり意味が無い。
まったく不要というわけではないのだが、どちらかというとアイゼンを着けて登る道のようである。他の登山者は皆、一様にアイゼン装着だった。
少数派のスノーシューで、森の中をどんどん進んでいくと、やがて森の奥に趣のあるヒュッテの建物が見えてきた。

先週末に登った北八ヶ岳。
北八ツと言ってもエリアは広大。今回のルートは、蓼科高原からロープウェイで一気に2200m超まで登って、そこから北横岳を目指すというもの。
まずは「ピラタス蓼科ロープウェイ」に乗って、ラクして高度を稼ぐのである(^ ^;

ロープウェイを降りると「坪庭」と呼ばれる高地平原に出る。
ロープウェイはスキー客で満員だった。坪庭の看板とともに写っているのは、大多数がスキーヤー。その中に僅かながら登山客の姿も見えた。
スノーシューを装着し、いざ出発。目指すは絶頂での好展望が期待できる北横岳だ。

しばらくは坪庭の平原の中についた足跡に沿って進む。
雪が積もっているとはいえ、その下の植生を痛めないよう、登山道と思わしき道は外れないように歩いていく。
坪庭にいる時点では、上空は雲に覆われていた。
八ヶ岳の上空だけに、大きな雲が浮かんでいる。高山に気流がぶつかり、次々と雲が発生しては流れていっているような感じだ。

坪庭の端に到達し、森の中に入っていく。
と同時に上り勾配となり、本格的な山道が始まる。
道には足跡が明瞭についていて、足を取られることはない。
その代わり、どんどんと高度を上げていく道は、雪道ながら登山道そのものだった。
思えば、スノーシューを履いたスノートレッキングで、これほど本格的な登山道を歩くのは初めてのことかもしれない。
これまで平坦な道や、なだらかな斜面を歩くことが多く、これほどはっきりと、登る道を歩くことは今までなかったような気がする。

木々の隙間から、今歩いてきた坪庭の広大な平原と、その向こうに鎮座する縞枯山を望む。
雲に陽の光は閉ざされ、薄暗く陰った景色だったが、徐々に雲が切れ、陽の光に輝く景色が現れようとしていた。