北海道6日目。
実質の最終日となるこの日は、旭川を朝一番に出て美瑛方面へと向かう。
R452からパッチワークの路に入れば、広大な丘陵地帯を真っ只中に見を投じることとなる。
久々に訪れる美瑛の丘には、人の生業が創り出す絶景が、今も変わらず点在していた。
北海道の中でも定番中の定番スポットと言うこともあり、どこかで見たような景色が連続するが、やはりその中に身を置いてこそ感じるものがある。
広大な農耕地の中ではたらく車両の巨大さに驚く。
北海道を走っていると、公道を走っていいいのか?と思ってしまうほど様々な農耕作業車に出くわすが、それも独特の景観を形成するひとつの要素なのだと思う。
朝の丘陵地帯を走り回って、走りと景色の両方を堪能した後、美瑛駅前の道の駅に立ち寄る。
駐車場は埋まっていたが、いずれも車内就寝中のクルマばかり。
睡眠を妨害しては悪いので、離れた駐車スペースにエスを停める。
富良野線周辺の佇まいも、旅情を掻き立てる。
美瑛の街からは、置杵牛広域農道で十勝岳山麓方面へ。
前半は果てなきストレート。山中に入ると路幅は狭くなり、アップダウンを繰り返すという二面性を持った道。
交通量はまったく無いと言ってよく、気持ち良く走りを楽しむことができる。
道道966号に出ると、美瑛のもうひとつの道の駅と「青い池」がある。
かつてあのAppleが、MacのRetina Displayの壁紙に日本人カメラマンのこの池の写真を採用したことで、一躍有名になった場所。
自分のMacにも一時期設定していたあの美しい風景を、実際に目にするのはこれが初めてである。
壁紙は初冬の雪の池だったが、真夏の景色も十分独創的だった。
立ち枯れた木々の足元を覆う目にも鮮やかなライトブルー。
一時期、台風の影響か何かで水質が変わってしまったこともあったはずだが、かつての壁紙のような美しい色彩は健在だった。
2023年夏の北海道ツーリングは、本州並みの暑い夏の旅となったが、色鮮やかな色彩の共演を至る所で堪能することができた。
青い池は、その極めつけの絶景と言ってもいいかもしれない。
白金温泉を過ぎると、D966はそのまま山岳ワインディングへ。
十勝岳スカイラインと銘打たれた道は、急勾配を伴いながら十勝岳を急登していく。
途中の望岳台で眺める十勝岳。
展望台の駐車場は広いが、十勝岳の登山口となっているらしく、1台の空きもないほど混雑している。
振り返れば、美瑛の丘。
短い北海道の夏。登山は今がハイシーズン。十勝岳温泉の駐車場も隙間がなく、車中から眺めて終わり。
道道291号で上富良野の街へ一気に下りていく。
十勝岳スカイラインから位置エネルギーを開放したまま上富良野駅の脇を通過し、その勢いでR237も横断して突き進むと再び登り道となり、千望峠へと行き着く。
今度は上富良野の丘陵と街を挟んで十勝岳方面を望む。
峠のイメージとは裏腹に、周囲はなだらかに畑地が続く。
その向こう側に、幾重にも丘の地形が重なり、独特の景観を生んでいる。
視覚的な楽しみもさることながら、その起伏をなぞるように走る楽しみも忘れ難い。
高い山と美しい水の風景も相まって、素晴らしい景観特性を持つ美瑛・富良野エリア。
道北・道東エリアに流れてしまいがちだが、改めてその魅力を再認識した。
7月なので、富良野はラベンダーの季節。というわけで、ファーム富田に訪れた。
旅の終盤で、遂にベタな観光地に足を踏み入れることとなったが、たまにならよしと自分に言い聞かせる。
残念ながらラベンダーの開花時期はほぼ終わっていたが、収穫後のラベンダーの精油作業等を間近に見られたので、来て良かったということになった。
大人気観光地には長居はせず、道道298号で富良野盆地を大回りして富良野市街へ。
混雑する市街地を通過し、R38で芦別、赤平方面へと向かう。
赤平より道道114号で歌志内へ。
全国で最も人口の少ない市である歌志内市。その人口は、なんと3,000人にも満たない。
炭鉱都市の行く末を体現する山間の集落的都市の沿道風景は、どこか悲哀に満ちている。
かつて黒いシビックに乗っていた頃に開業した道の駅さえも、場末的な雰囲気に変わり果てていた。
歌志内から上砂川、R12に出て奈井江へ。
道の駅ハンティングをしながら進み、最後の三笠の道の駅が、51駅目となるチェックインとなった。
その後は道央自動車道に乗り、一気に距離を稼ぐ。小樽港を17:00に出港する新日本海フェリーに乗船するためだ。
往路と同じ、あざれあ号に乗船。小樽を17:00に出て、新潟に翌日9:15に着く。旅の足として、理想に近いダイヤだ。
往路の出発時間(12:00)到着時間(翌日4:30)と合わせ、かなり使い勝手の良いダイヤで、いつもより北海道が近く感じられた。
過去に利用した際には、もっと航行時間が長かった気がするが、船体が新しくなったことも影響しているのだろう。
新潟港に到着し、新潟市街で給油と朝食を済ませて、北陸道・関越道で一気に帰還。
計9日間に及ぶ、夏の北海道ツーリングは終幕を迎えた。
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2023年、記録的な暑さが続く夏。
涼を求めて渡ったはずの北海道は内地と変わらぬ暑さで、地球沸騰という言い得て妙な気候変動を、肌で感じざるを得ない環境だった。
気温に体力を奪われる人間を尻目に、S2000は終始好調。熱い北海道の路面にラバーを残し続けた。
唯一不安のあったミッションは、この北海道ツーリング中に限っては、気になるような操作感はほとんど発生しなかった。
今回の走行距離は3,568km、平均燃費は10.6km/lだった。
フェリーの距離が長かった分、絶対的な距離は伸びていないが、走り込んだことで得られる一体感は、しっかり身体に残っている。
ステアリングから得られるインフォメーションは常に確実、雨の中でも不安になる挙動は無く、全天候型ツーリングマシンとしての面目躍如だった。
北の大地で出会う独特の景観。
時間が止まったかのような、その地にある風景のひとつひとつが愛おしい。
目まぐるしく変わり続ける世の中で、ずっとそこにある原風景は、疲れた心と身体を癒やす存在になり得るのではないか。
ふと大切なものに気付き、原点に立ち返る、そんなきっかけを与えてくれるかもしれない。
北の地で嗜む食と酒。
年齢を重ね、ようやくそれを楽しむ入口に立てたような気がする。
思う存分、走った後に楽しむ食と語らいの時間は、旅の時間の魅力を増幅させる大切な要素となっている。
夏が夏らしいからこそ、得られた経験がある。
フロントガラス越しに見た鮮やかな原色の風景は、これまで見たことがないほど、色彩の魔力に満ちていた。
折り重なる立体的な雲は、大気の芸術。地球の息吹を感じるほどの迫力に満ちている。
そんな非日常的な境界なき空間に、吸い込まれるように走り続ける。
それは欲望であり、快楽であり、生きている証。
この旅で得られた経験を糧に、S2000という小舟に乗って、これからもどこまでも突き進んでいく。
2023 Summer Touring in Hokkaido
いつかまた、訪れる日を夢見て。
・・・ END ・・・