3月 302012
 

オーバードアがついて、ようやくその機能が明らかになり出したcar pit。
その容量についてコメントを頂きましたので少々。
car pitの部屋幅は、寸法的には柱芯間距離で5160mm。内法有効でだいたい5mってとこでしょうか。

通常、屋外駐車場の車室が1台当たり2500mmくらいなので、ちょうど2台分てことになります。
屋内になるとサイドの空間的余裕がなくなるので、実際には外より狭くなり乗り降りは大変ですが、一応2台横並びに並べて駐車できる寸法です。
しばらくはエスともう1台という2台体制が続くと思われ、またその2台目もただのアシではなくそれなりに思い入れのある車種になること、car pit内で簡易整備を行うつもりでいることを考えると、2台分の駐車スペースはあるに越したことは無い、というのが計画上の方向性でした。

このくらいの空間になると、通常の木造では構造的に無理が生じます。
木造はあまりスパン(柱と柱の間の距離)を長くできないので、せいぜい1台分の車庫になってしまう場合が多い。なので、こういった2台以上の大空間ガレージを建てる場合は、スパンを飛ばせる鉄骨造とすることが多いと思います。

にもかかわらず、R style Houseの構造は木造です。
ただ、通常の木造とは異なるということは、最初の基礎工事や上棟時に紹介した通り。
一番特徴的なのは、大断面の集成材を梁として用い、それを金具を介して柱と締結していくという工法。在来の木造は、柱と梁の接合部に加わる回転方向の力に抵抗することができません(構造解析上、回転の力に耐えると評価することができない)。そこで、筋交いや耐力壁を大量に入れることで変形に耐えられるように設計します。

それに対して今回の工法は、回転方向の力に対しある程度は耐えうると評価することができる「準ラーメン構造」と呼ばれる構造形式なので、筋交いを必要としません。
床と外壁の一部に構造用合板を併用しますが、基本的にフレームで構造を支えるので、大空間を形成することが可能になります。

この特徴を最大限生かして、今回の並列2台分の屋内駐車スペースを木造で実現したという具合。
その他にも、この大スパンの開放的な構造形式の特徴は生活スペースにも活かされているんですが、荷重を支える最下階においてこれだけの大空間を実現できているのは、こういった特殊な構造形式を選択しているからなんです。

内装があるので構造躯体はもはや目に見えませんが、さりげないけど実は考えられている、っていうようなことが一番よくわかるのが、このcar pitの大空間だったりします。

 Posted by at 12:27 AM
3月 242012
 

上棟から約2ヶ月とちょっと。遂に足場がバレて、家の全貌が露になりました。

最後の大仕事、外壁の左官工事が終了。ベンドキャップなどの金属部品の取付け、サッシのクリーニング等の作業を経て、本日の午前、足場解体。
それまで覆いや支えが必要だったような状態から、自立して以後はじっと風雨に耐えていくことになると考えると、上棟同様、グッとくるものがあります。

外壁左官工事、かなりの難工事でした。
選んだ仕上材が、配合も塗り付けもかなりシビアな類のもので、前にも報告した通り、試し塗りで確認をしてその通りに塗っている(と現場は判断している)にもかかわらず、同じような仕上げになりません。

1日がけで塗った一面を結果的には塗り直すことになり、それでも上手くいくかどうかわからない状態だったので、左官職人は増員で計6人体制。足場上に6人が横並びに並んで上から塗り始め、徐々に下に下りてくる。左官屋の親方が見かねて出動し、地上から逐一指示をする、といった住宅工事にはあり得ないような施工体制でなんとか仕上げた、との報告を受けました。

それもこれも、通常なら避けられるムラを装飾とする特殊な仕上材であるということと、一面あたりの外壁の面積が大きいということが、工事を難しくした原因です。

でもこれは、あくまでデザイン上の意図があってのこと。

新築の外装はピカピカしていて当たり前かもしれませんが、自分の価値観では、そこは大して重要なことではありません。
最初はピカピカでも、そこから先は古くなっていくだけ、汚れていくだけ。最初が100で後は価値が下がっていくだけの存在に魅力は感じません。古くなっても、その古さがいいんだよね、って感じられる状態をむしろ大切にしたい。
20代の頃からずっと興味があって、R styleでも紹介してきた過去の建物や街並みに感じる価値観が、自然とそういう思いに繋がり。。

新築でそれを表現するのはなかなか難しいですが、今回の回答は、この左官材でした。
左官のコテの塗り具合でムラを誘発するので、手仕事の跡が目に見えて残ります。均一性を否定し、あたかも汚れか不良品か(!?)というような模様を敢えてデザインとして取り込むことで、新品なのにそうじゃないような感覚を誘発させることを狙いました。

あまりにもムラが人の手に依るので、人単位の工区ごとでハッキリと色ムラがわかってしまいます。普通なら施工不良と呼ばれてもおかしくない次元(実際、工務店は心配していた)ですが、それもまた味。意図のあるデザインだから、こういう仕上りもアリだと思うのです。

そしてその手跡が、どこか暖かみを感じる仕上げになるというところもポイント。
最初のイメージで、「山小屋」というのを紹介したと思います。都会における「山小屋」を表現するための仕上げと形態。その回答でもあります。

シンプルな形態が大きな壁面となり、そこに表現されるのは手跡のある仕上げ。
家を計画する時、最初にイメージしたものに、最後は立ち返っていく。
自分なりの手法で表現をしてみた結果のひとつが、この外装デザインです。

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 Posted by at 5:11 PM
2月 022012
 

立面計画とはすなわち、外観のデザインのことで、いちばん想像しやすいけれど、何もない状態から生み出すのは結構難しい計画でもあります。

立面も断面同様、プランを考えるのと同時並行で進めていきました。
間取りだけを考えていると、立面は無秩序に配置された窓だらけな壁面になってしまいます。どこにどれだけの開口が出てくるのか、常に頭の中で想像しながらプランを考えていくこととしていました。

一方で、あまり凝った立面デザインにしたくない、という気持ちもありました。
極力シンプルな外観とするのがコンセプト。
ただ、シンプルと言って無表情にするのではなく、要素を限定することで、凛とした佇まいを表現したいなと考えていました。

特にこの家は、設計コンセプトから「基地」と「山小屋」というイメージが導き出されていたので、それらのイメージを外観にも表現する必要があり、そこから華美なデザインを排除した要素限定的な表現が自ずと求められていた気がします。
家の佇まいが、都会に住むための基地のような機能的でかつ遊び心に溢れていながら、どこか優しく包み込み教習を覚えるような山小屋のような存在であること。
それを形態と素材で表現することが、立面計画でもっとも重要視したことです。

形態は自然とシンプルな、片流れの屋根を持った箱状のものにすんなりと決まりました。
複雑な形状を強要するような敷地形状でもなかったし、単純な形は構造上有利にはたらき、余分なコストもかからないというメリットも考慮しました。

ファサードに表出する要素としての材料は、壁面を覆う材料に関しては1種類に限定し、色分けしたり模様を変えたりといったことはしないことに。
ただ、単一の材料でのっぺりとした表情にならないよう、テクスチャー豊かに感じる素材、模様を採用したくて塗り壁にするという方針はかなり早い段階で決めていました。
(サイディングのフェイク模様や目地がキライである、というのも大きな理由でしたが)

 Posted by at 7:19 PM
1月 202012
 

前にも書いた通り、プランを考える際は必ず高さ方向についても並行して考えていくことが大切だと思ってます。「間取り」をつくることが設計ではなく、「空間」をつくることが設計だと考えているからです。
平面的な広さ(何畳とか)を考えるのではなく、 空間ボリュームとその形態や繋がり方(シークエンス)について思考を巡らせることが、設計では重要だと思います。

R style Houseの設計においても、平面図を描く時は必ず、断面方向(z軸方向)を並行して描いていきました。
特に東京みたいな密集市街地では、法的な高さ制限が厳しく課されているので、断面方向の計画は常に念頭に置いておかないと、プランが成り立たないということが想像以上に発生します。

また、天井高が常に一定の空間の集まりは退屈なので、空間ボリュームに変化を持たせ、それが心理的に効果的にはたらくよう、空間の高さを調整する必要があります。とは言え、ただ広いだけの空間は拠り所がなくて落ち着かないし、狭いのに天井ばかり高くても不安定な感覚に陥ってしまうので、加減は必要ですが。
どのくらいの寸法がどのくらいの効果を生むかといった辺りは、かなり専門的です。それなりの設計者でないと、確信を持ってできない部分ですし、センスも問われます。

ひとつ言えることは、空間ボリュームが大きくても小さくても、それぞれにいい部分とそうでない部分があるということ。それらを繋げたり引き離したりして、ひとつのまとまった空間の集合体=家をつくっていくようなイメージ。
また、ただくっるけるのではなく、そこに身を置いた時の目線での空間の展開とか、機能によって空間に序列化するという概念も加わってきます。

あんまりマニアックな話になっても止めどなくなってきますのでこの程度にしておきますが(笑)、空間を考えるということはそれくらい濃密な作業で、精神的な行為です。
断面を考えるということは空間を考えるということで、その先には深遠なる世界が待っているような気がします。だからこそ重要で、面白い作業なわけです。

かなり概念的な話になってしまいましたが、具体的には吹き抜けの空間や、天井高を抑えた空間、部分的に狭く絞った空間を組み合わせ、それが法的に成り立つよう工夫しています。
生活の場ですので、動線などの機能面も当然無視できないので、そこはちゃんと想定した上で、断面計画を行っています。

決して大きな家ではないので、空間のボリュームはごく限られていますが、シンプルな外観からは想像つかないような変化のある空間の集合を目指して計画したつもりです。ちょっと言い過ぎかもしれませんが(^ ^;

 Posted by at 7:49 PM
1月 082012
 

2階が山小屋のロビー、あるいは大食堂みたいな位置付けだとすれば、ロフトは屋根裏の寝室みたいなイメージです。
皆が共に時間を過ごす大部屋に対して、完全プライベートな秘密の空間のような・・(実際は山小屋は基本的に雑魚寝ですが^ ^;

そういったイメージで設定したロフト空間なので、リビングの吹き抜けに付随するような、いわゆる「ロフト」とは少し趣を異にしています。ロフトというより屋根裏部屋って感じ?その他の生活スペースからは隔絶され、言われなければこの空間があることすらわからないような、文字通り秘密の部屋を設けています。

屋根裏とか秘密の部屋、って響きにドキドキした経験はないですか?
子供の頃、秘密基地と称して遊んだ記憶。それはまさにR style Houseのイメージ、「基地」「山小屋」から連想するイメージそのもの。
そんな空間を、この家の最上部にこっそり組み込んでいます。

・・・と、いかにもコンセプトからすんなりと設定されたかのようなこの秘密の部屋ですが、実際は計画する上でかなり紆余曲折あった空間でもありました。

そもそもロフトではなく3階にしてしまった方が汎用性が上がりましたが、3階建にすると条例で近隣説明の義務が発生して面倒だし、街並みや外観的にもバランスが取れない(周辺一帯の家はほぼ2階建)。
秘密部屋を納戸として使用する前提から、1階と2階の間に設ける(この場合「ロフト」と呼ぶより、ミサワホームの商品から「蔵」と呼ぶのが一般的、かも)というプランも相当検討しましたが、結果的には屋根裏部屋的な空間にすることに落ち着いています。

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【ちょっと豆知識】
ロフトを2階の上に設けるのと、3階建にすることの違いは何か。
一般的にロフトとは、法的に階に算定されない床を言います。階に算定されないためには、平均天井高を1.4m以下にすることが条件になります。つまりロフトとは、 立って歩くようなことが難しい空間を言うわけですね。

階に算定しない、ということがどれだけ意味を持つのか。法的に木造2階建と3階建では、かなりの違いが生まれます。
代表的なところでは、3階建は構造計算が必要になります。逆に言えば2階建は必要無く、設計者の責任という名目のもと、法的な確認は免除されます(それはそれで問題がないわけではないですが)。それだけ木造3階建は特殊で、コストも労力もかかる形式なんです。だから、2階か3階かというのは、土地の形状、属性とコストバランスを十分考慮して定める必要があります。
ちなみにR style Houseは法的には2階建ですけど、構造計算を行って、それに基づいて構造計画しています。

その他にも、都市部に見られる準防火地域(R style Houseの敷地も該当)では、木造3階建はワンランク上の準耐火建築物という規定に則った仕様にしなければならないなど、いろいろ足かせ(コスト的な面も含めて)が発生してきます。

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1階がcar pitのため許容床面積に余裕がある(「駐車場」はある一定の割合まで容積率対象の床面積に算定されない)ので、面積的には3階建にすることは可能。準耐火建築物にして近隣説明をしてしまえば3階建も無理ではありませんでしたが、最終的には高さ制限との兼ね合い(外観的に奇形になってしまう)とコスト面の理由でヤメておきました。

というふうに実際にはロフト空間は、コンセプトからくるイメージとは別次元で、かなり法的な背景から導き出されています。
実際の用途は、寝室と納戸を予定しています(予定してるだけ。生活スペース同様、いろんな状況に対応できる空間であることが前提だから)が、なんせ天井高が1.4mしかないわけで、空間の雰囲気が想像つかないのが正直なところ。
でも、ただ単に利便性を追求するのとはワケの違う、普通ではあり得ないような「経験」を体感させてくれる装置があるのも、この家に相応しいんじゃないかな、と思っています。

 Posted by at 6:43 PM