
幸せ岬
身も心も、しあわせになりたい
翌朝起きてみると、窓の外は嵐だった。
沖縄の暴風雨は尋常ではない。台風でもないのに、朝っぱらから横殴りの雨。予報レーダーによれば、小1時間ほどの悪天候らしいのだが。

嵐が収まった後に、ホテルをチェックアウト。予報通り、確かに雨は上がっていた。
ただ、この日は遂にというか、予想していた通りというか、一日中雨天を覚悟しなければならない。
昨日、雨の予報にもかかわらず晴天に恵まれていたので、それだけでもヨシとしなければいけないのだが。。

ホテルを出発し、いったん名護方面に向かって、道の駅「許田」を訪問する。
S2000の周囲を取り囲むはレンタカー。沖縄では、「わ」「れ」両方のナンバーのレンタカーが存在する。
沖縄の道を走っていると、特に郊外は走っているクルマの半分くらいレンタカー、という感じがした。
なので、観光地の駐車場は白いヤリスでいっぱい、なんてことも。
飛行機で訪れて、現地でレンタカーが常識的なスタイル。本土から船で訪れようという発想は、ドライブジャンキーな人種の特権である。
国道329号で宜野座村から金武(きん)町へ。
金武で沖縄初の給油。意外なことに、沖縄県のガソリンは安かった。たまたまなのか、乗船前に給油した鹿児島市内と比較して、@20円は安価だった。
鹿児島県は高いというイメージがあるので、たまたま比較するとそういう印象になるのかもしれない。
でも、全国有数のクルマ社会である沖縄県だから安価であることも納得できる。この日からその車社会の中枢に入り込んでいくわけだが。

道の駅以降は再び雨が降り出し、金武以降は本降りの様相になってきた。
この日は本島中部を巡って南部に行き着く行程だが、この空模様では景色は望むべくもない。
フロントガラスと幌を激しく叩きつける大粒の雨を憎みながら、本日の行程に思いを巡らせる。
脳内会議の結果、本島中部のうるま市にある植物園を目的地に設定することになった。
植物園であれば、雨でものんびり散策して、沖縄の熱帯らしさに触れることができると思ったのだが・・・

東南植物楽園
オーマイガー、植物園は露天仕様でした。
熱帯なのだから温室など必要ない。考えてみれば当たり前。
仕方ないので、傘を携えて園内を回る。GW中だが平日ということもあり、園内は閑散としていた。

なぜか放牧?されている動物たちと戯れながら、園内を散策。
レストハウスで、これまたなぜか昆虫の企画展が催されているのをひと通り見て回った後に外に出てみると。

なんと青空が。
なんだこの急変っぷりは。

一瞬にして夏空に・・・
沖縄の空は、目まぐるしくその表情を変える。
天気予報で雨と言っていても、実のところは場所によって晴れていたり、そうではなかったり。
さっきまで晴れていたと思ったら、いきなり雲が広がって雨が降り出したり。。
やはり沖縄は、海洋に浮かぶ島なのである。気圧による気流の影響を受けやすいのだ。
図らずも、嵐の後の熱帯雨林の美しさを目の当たりにすることとなる。


ハイライトは、ユスラヤシの並木道。高さ25mにもなるヤシの木に囲まれる道は、圧巻の光景。


明るく照らされた並木道に身を置くと、身体の隅々まで浄化されていくような感覚に包まれる。
長い年月をたくましく生き抜いてきた生命力に触れることで、眠っていた生命力が覚醒し、純化されていくようだ。

その道を何度も振り返り、立ち去るのを惜しんだ。
美しい光景を拝ませてくれた沖縄の空には感謝しかない。
島の天気はきまぐれ。諦める必要などないのである。

植物園の散策終了。
すっかり好転した空模様。日焼け対策を施して、ルーフを開け放った。


県道36号で海中道路を目指す。
悪天候の場合、訪れるかどうかさえも迷ったスポットだが、どうぞ来てくださいとばかりに極端に天候が好転したため、迷わずS2000のノーズを向けた。
海中道路とは、うるま市にある平安座島へと続く道。両側を海に挟まれた地形は、これぞ沖縄!な景観のひとつだ。
実際に訪れてみると、いつの間にか海中道路に入っていた、という感じ。
道幅も広くて、海の中を走っている感覚は乏しかったが、沖縄特有の真っ白な舗装面と透き通った海面の色彩のコントラストが素晴らしい。

海中道路の途中には、広大な駐車場とあやはし館というレストハウスがある。
あやはし館の物産店舗を覗いた後、再び路上へ。

平安座島に上陸すると、道は普通になってしまった。
平安座島から小さな橋で宮城島に渡る。宮城島内の本来メインルートなっている道路は工事通行止めとなっていて、迂回路へと案内された。
幹線から逸れ、生活路で迂回した後、先端の島、伊計島へ。

ここまで来ると、走るクルマもおらず、道もかなり淋しくなった。
静寂が支配する島の風景、と言いたいところだが、軍用機が爆音を轟かせて頭上を飛び去っていく。

伊計島の先端にタッチしたら、来た道を引き返す。
その途上、ぬちまーすという製塩メーカーの施設に立ち寄ることにした。
沖縄の海水を由来とした製塩関連の製品やグッズが充実したレストハウスがあるが、ここに来たのはそれがメインの目的ではない。
ぬちまーすの駐車場の脇道を登っていった先に目的地がある。
そこには絶景という言葉しか見つからないほどの絶景が。

果報バンタ
沖縄の言葉で「バンタ」とは、「崖」や「岬」のことを指すという。
高さ70mの崖上からの景色は、ウワサ通りの絶景だった。海面の底まで見通せる透明度、その海面の色彩のグラデーション、手つかずの砂浜。
どの要素も、ドライブ中に滅多なことでは見ることなどできない。美しき光景だ。


陽光に照らされた瑞々しい色彩の饗宴。
再び多くの雲に覆われつつあった空が、ここに来て吹き飛ぶように姿を消したのは、運が良かったとしか言いようがない。

洋上に浮かぶ島を一望する絶景の岬。
こんな日本離れした場所にS2000で来られるとは、自分で来ておきながら、まったくもって信じ難い。
それでも、ここにいるのだ。
長い時を経て、S2000で訪れるチャンスを掴んだからこそ、ここにいる。
誰でも、いつでもできることではないからこそ、この機会が得られたことに感謝したい。
・・・・・・・

本島からクルマでアイランドホッピング、最後は浜比嘉島。
琉球開祖の伝承があるアマミチューは車窓より。

もう一箇所、シルミチューはS2000を降りて散策。
場の空気が張り詰めた神聖な場所。鳥居の奥には、巨岩と洞窟があるが、厳かな雰囲気に包まれている。
子宝祈願の聖地だからか、訪れる人は若い女性ばかりだった。
・・・・・・・

勝連城跡
海中道路で本島に戻った後、半島の根元付近に遺跡を見つけたので立ち寄ってみることに。
世界遺産に登録されているだけに、駐車場もビジターセンターもしっかりと整備されていた。
14〜15世紀頃に築城された琉球王国統一以前の城で、今は石垣だけが残っている。

その石垣が特徴的で、優美な曲線で形作られているのだ。
城なのでもちろん守備的な機能を持ち合わせていると想像されるが、石積の曲線が折り重なる様は、何とも美しい。
城ながら、流麗で女性的な建造物だと感じた。

頂上まで登り詰めると、周囲の地形と町並みが一望できた。
地域の首長が統治していた時代の名残である城(グスク)は、琉球王国の成り立ちを知るうえで、とても重要な存在であると思われる。
今回の旅では旅程の都合上、多くを訪れることはできなかったが、琉球の歴史を紐解くきっかけになればと思った。
・・・・・・・
勝連城を散策し終わると、頃合いの時間となりつつあった。本日の宿泊地は、那覇。うるま市からは、まだ距離がある。
沖縄以外であれば時間が読めるのだが、渋滞の悪名高い沖縄本島都市部の交通状況は、距離感同様、まったく予測がつかない。
それなりに時間に余裕を持って移動したいところだ。
うるま市を県道85号で抜け、北中城(きたなかぐすく)村でR329に入り、ひたすら南下を試みる。
中城(なかぐすく)村の区間は片側2車線が確保されていて、クルマの流れは良かったが、なぜだか全くと言っていいほど右折車線が無い。
至るところで右側車線が塞がれているため、隊列を組んでジリジリと左車線を行くか、イチかバチか右側車線をヒャッホーとすっ飛ばすか、選択が難しい。
西原町でR329バイパスを那覇方面へ。
いよいよ交通量が多くなり、赤信号の度に長蛇の列に参加する。この辺りまで来ると、島にいるという雰囲気がほとんど感じられない。
走っているクルマの量は、本土のちょっとした都市部並み。クルマの種類も、ことさら軽自動車が多いわけでもなく、強いて言えば、輸入車の数が少ないくらい。
交通状況だけ見ていると、大都会にいるような錯覚さえ覚える。
時間はかかったものの、幸いなことに渋滞らしい渋滞には遭わず、那覇市街へと進入することができた。
国際通り裏手のホテルに到着したのは17:30頃。勝連城から約1時間の道のりだった。

那覇の停泊地の選定基準は、比較的落ち着いたエリアで、それでいて繁華街に遠くなく、S2000を安心して停泊しておけるところ、だ。(別に那覇に限ったことではないが)
それは地図を見て判断するしかないのだが、今回の宿については絶妙な立地だった。歩いてすぐに、味のある市場のようなアーケード街がある。
その土地の空気感を知るために、こういったアーケード付き商店街を散策するのがいい。

思い切りシャッター街じゃないか、と面食らうが、賑わいがメインストリートに露出していないだけ。
那覇の夜の顔は、メインストリートから入り込んだ路地にある。

市営の公設市場周辺の路地裏には、所狭しと屋台街のような店が並んでいる。
テーブルや椅子とともに、飲み屋街の喧騒が路地に溢れ出している。
どこかで見たことのあるこの光景。
まるでアジア諸国の屋台街のような。言語は見慣れたそれだが、雰囲気というか空気感というか、日本国内とは思えない。


人が溢れるほど入っている店と、まったくいない店で極端に差がある。なかなか新参者には難しい。
ひと通り見て回って雰囲気を掴んだ後に、適当な一軒を選んで入店。キンキンに冷えたオリオン生で喉を潤す。

一軒目はそこそこで切り上げ。
調子も出てきたので、二軒目はこれまた雰囲気と勘だけで、コレと思った店に入店。

ビールは済んでいたので、海ぶどうをつまみに1杯目から泡盛。
食事はメニュー豊富。しかも心配になってしまうほど安価だったが、出てくる食事はしっかり美味かった。
それなりに飲んで食べたが、心配を通り越してしまうほど安価。物価高の世とは隔絶された、まさに異世界の路地裏街だ。

酔い覚ましと腹ごなしを目的に、国際通りを散策。言わずと知れた、那覇の中心街だ。
さっきの市場の路地裏街がウラの顔なら、こちらはオモテの顔。
煌々と輝くネオンと電飾に群がるかのように観光客が集まり、喧騒で歩道が埋め尽くされている。
国際通りは先程の路地裏街とは逆に、国内旅行客より外国人観光客の方が圧倒的に多い。
勝手な想像で、もっと大通りに商業ビルが立ち並んでいる光景を思い浮かべていたのだが、実際のスケールは思っていたよりずっと小さかった。
却ってそれが、アジアの一都市を強く感じさせる。それがゆえ、異世界感を醸し出しているのかも知れない。

ザ・観光客向けという店ばかりで入ろうとは思わないが、立ち並ぶ店によって形成される綺羅びやかな空間には、観察の余地がある。

入ろうとは思わない、と言っておきながら、シメのステーキは別ということで。。

沖縄初日以来のステーキ。今回は飲んだ後に食べるシメのステーキということで、那覇文化の体現である。
さすがに空腹ではないので小さなサイズにしておいたが、それでも食べごたえ抜群。
ステーキだけ頼んでも、当たり前のようにご飯とサラダとスープが付いてくるのが沖縄スタイルのようだが、三軒目でコメはさすがに食べ切ることができなかった。

ホテルまでそぞろ歩く道にも、風情のある明かりが灯っている。
整理整頓された感はまるでなく、どこもかしこも自然発生的なところがリアルな感じ。
楽しみにしていた那覇の夜。喧騒と食と酒をたっぷりと味わい、胃も心も満足して就寝と相成った。
