千光寺からは坂を下りていく。何のあてもなく、ただ目に入った路地を進んでいくだけ。尾道ではそれが楽しい。
中でも面白かったのは「猫の細道」という名の、廃屋を再生したギャラリーなんかが居並ぶ薄暗い路地。
遊び心のあるオブジェやアートがさり気なく点在し、劇画の中にいるかのような異空間を感じる。
ちょっとだけ恣意的で、路地空間を魅力的にするアノニマスな雰囲気は希薄かもしれない。
それでも、センスのいいアートの数々には見惚れる。
こればっかりじゃあ食傷気味になってしまうけど、たくさんの路地の中の個性的な味わいのスパイスとして、こういう異空間が混ざっているというのがいいのかもしれない。
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猫の細道にあったカフェ「梟の館」で、朝のcoffeeをいただくことにした。
鬱蒼と茂った蔦と草木に覆われた家屋は、どっからどう見ても完全に廃屋の様相。これが本当にカフェなのか。
そんな不安を他所に、朽ち果てようとしていた古民家の空気感を上手に残した、意外と居心地のいいカフェだった。
斜面の地形を上手に利用して建てた民家は、既にその役割を完遂したかのように見えるが、立地の特性だけでも延命される価値がある。
廃屋とか廃墟に、ちょっとしたロマンを感じる自分(つまりは廃墟萌え)としては、イチオシにしたいカフェである。
尾道ではこれ以外にも、様々な路地とスポットを巡ることができるようにできているので、坂道散歩としてここに紹介したのはごくごく一部だ。
クルマで巡るにはほとほと向いていない街ではあるが、時間があれば1日かけて歩きまわってみたいと思わせる魅力がある。
歩き疲れてクルマが恋しくなれば、しまなみ海道に踏み入れて、瀬戸内海の島々を巡ればいい。
歩いてヨシ走ってヨシ。尾道は、旅人の心をくすぐる要素が詰まった魅力的な街だった。