5月 192019
 

2019 05 19 01

翌日、内牧温泉から国道212号でミルクロードに上がるも土砂降り。
すぐさま県道11号でカルデラに降りて、登山道路を目指す。

かつて阿蘇パノラマラインと呼ばれた元有料道路。
素晴らしい眺望と火山地形を間近に感じることのできる、阿蘇のメインワインディング。

登山道路には3線あり、阿蘇駅からまっすぐ登っていくのが東登山道。
米塚で接続し、西に下っていくのが北登山道。草千里付近で接続し、南山麓を走るのが南登山道だ。
かつては東=坊中線、北=赤水線、南=吉田線と名前が付いていたが、現在は方角で表現するようだ。

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登山道路の途中からカルデラを眺めると、その外周を外輪山が取り囲む地形がよくわかる。
外輪山の高さは見渡す限りほぼ同一で、その向こうにはなだらかな台地が広がっている。
カルデラは噴火後に陥没、沈下して形成された平地であることを再認識する。

阿蘇の山肌には樹木が少ない。これは、北側外輪山尾根にあるミルクロード周辺にも言える。
噴火で吹き出した結果、堆積した土壌が酸性質であるために、樹木が育ちにくいからだ。
カルデラ内でも同じことのように思えるが、ここには実際には田畑が広がっている。先人たちの土壌改良の苦労が忍ばれる。

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痛々しい山肌の阿蘇。
かつてこの既設に訪れたなら、もう少し緑鮮やかな山塊の風景を楽しめたはず。
しかし、今回は赤い山肌が露出した風景を目の当りにすることとなる。
3年前の地震は、阿蘇の風景をも大きく変えてしまったのだ。

北登山道はさほど面白くないので通過。草千里ヶ浜は大雨で、そのまま南登山道に抜けるも、こちらも大雨。車外に出ることすらできずに、南側山麓まで降りる。
今日は一日雨が降り続く日。九州どこに行っても大雨だ。こんな日はつべこべ言わず、ゆっくりと時間が過ぎ去るのを味わうのも悪くはないもの。

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白川水源

走っても仕方ないような天候なら、観光でもしてみようということでやってきたのが白川水源。
阿蘇のカルデラは湧水が実に豊富。あまりに豊富で、それが川となってカルデラ内を流れ、外輪山の割れ目を通って島原湾へと流れている。
普通に考えれば、外輪山に囲まれたカルデラは、水が溜まるか、まったく水が無いかのどちらかのはず。
そのどちらでもないという奇跡の地形が、世界でも類を見ない「人が定住するカルデラ」を成立させている。

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中でも白川水源は、一体が観光地化していて人気がある。
神社の境内の脇にある池は、実に神秘的だ。透き通った池の砂地の底から、絶え間なく湧き出てくる地下水。その量、毎分60トンというから驚きだ。

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阿蘇のカルデラ内には、こういった自噴する地下水がいたる所にある。
それら地下水と雨水を集めて、北側に黒川、南側に白川という河川となり、外輪山西の立野で合流し熊本平野へと流れ出る。
その源流のひとつが、ここ白川水源なのだ。

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山賊旅路

好天であれば、ここぞとばかりに走り回ることに熱中して空腹など感じる余地もないが、雨天なら話は別。
阿蘇のだご汁をどうしても食べたくなり、登山道を駆け戻ってR57沿いの店へとやってきた。

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だご汁とは小麦粉で作る練り物が入った汁のこと。阿蘇の農家で親しまれてきた郷土料理だ。
「だご」の食感はモチモチで、大変食べ応えがある。コクのある味噌汁が、雨に濡れた心と身体に染み渡る。

順番待ちして座敷でゆっくりと味わって、などという時間の使い方は、晴れた日中の阿蘇ではまず実行に移すことはない。
雨天だからこそ、出会えた味。

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腹を満たした後、R57を東へ行き、R265で箱石峠を越えて阿蘇南部広域農道へ。
強まる雨脚により、視界も悪い。水たまりを避けつつ走り抜けて、県道28号。南阿蘇の道の駅へ。
昨年も立ち寄った道の駅だが、今回は併設のモンベルショップへ。

ツーリング時に使用するコンパクトテーブルとしてsnow peakを長年愛用していたが、より簡単に使用可能なSOTOのコンパクトテーブルが欲しかったので購入する。
決して潤沢な収納スペースがあるとは言えないオープンスポーツによるツーリングにおいては、収納性に優れた小道具を充実化することも、旅の楽しみのひとつと言える。

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K28で俵山トンネルを抜け、菊池人吉大規模林道。グリーンロード南阿蘇を横切り、吉無田高原、県道57号、国道445号で山都町通潤橋付近へ。
悪くない道だが、この雨では。
ただ、この逆ルートは、通潤橋から阿蘇に向かうルートとして、あまり目立たないが非常に有用かもしれない。

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国道218号を宇城に向かって走るが、この区間がこの日一番の大雨となった。
淡々と走るが、どうしてもホットコーヒーが飲みたくなり、途中のファミリーマートでびしょ濡れを覚悟してありつく。

国道443号にスイッチし、さらに県道25号へ。雨は幾分小康状態になる。 

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最初は素朴な田舎道の様相だったが、徐々に山岳路の色合いが強くなっていく。

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人里が周囲からなくなると、山深い極上のワインディングロードへと変貌を遂げる。
峠である大通越手前には立派なループ橋。ほぼ全線に渡って整備された2車線のワインディングは、穴場というほかない。
並行する国道445号五家荘ルートが狭路だけに、ハイスピードランを許容するK25ルートは嬉しい発見だ。

五木村の道の駅にて、この日最後の休憩。R445を人吉に向かう。
五木から人吉区間のR445はトンネルが連続するものの、走りやすい。
トルネオ、ゼスト、S2000というホンダレアモデルの隊列で途中まで走行し、広域農道で迂回して人吉市街へ。

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17:30、人吉市街にある、今晩の宿に到着。
ペンション風のこのホテル、場所はJR人吉駅の目の前である。後ろに見える白い建物は駅舎だ。
エスから降り立つと、その駅から雄々しく蒸気を吹き出す音が。

駅のプラットホームに見える黒い機関車。もうもうと煙を吹き出しているのは、紛れもなく蒸気機関車。
そう、現役の観光列車用蒸気機関車、SL人吉号だ。 

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子供のように思わずホーム裏のフェンスまで駆け寄る。
SLそのものは、飾ってあるのを見る機会はあったが、動いているSLを見るのは初めての経験。
何かを試すように、断続的に蒸気を噴き出し、発車時刻を待っているようだ。

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多くの家族連れ、子どもたちが、SLを取り囲んで見入っている。
蒸気を吹き出すばかりで、まったく発車の素振りがない。単なるGWのサービスだろうか。

発車時刻を調べてみると、この時間に人吉駅を出るSLはない。
不思議に思って改札に行ってみると、14時台発車予定のこの日のSL人吉号、故障により18時発車に変更という張り紙が。
この遅延を笑顔で楽しむ観光客と、SL関係者の皆様の心は広い。熊本駅に着くのは一体何時になるのだろうか、などと考えてしまうのは、首都圏在住者の心の狭さゆえか。

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SLに夢中になった結果、チェックインは大幅に遅れた。
看板猫ちーちゃんの出迎えを受ける。

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大きな将棋の駒のキーホルダーが付いた部屋の鍵、相当ご高齢ながら明るくフレンドリーなフロントのご老人。
看板猫といい、謎の多いホテル。しかし、本日も就寝が目的。大した問題ではない。

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一日中雨天がゆえに、本日は満足には走れていない。
そんな日は夜の街散策にて、旅心を満たすことになる。

人吉は一度訪れてみたかった街。
久留米にしろ、阿蘇内牧温泉にしろ、今回は以前から気に留めていた街を選んで停泊することになっている。
昨年の九州ツーリングが県庁所在地がテーマなら、今回は気になって仕方がなかった街がテーマか。

人吉が気になっていた理由。それは街に点在する温泉だ。
温泉ハンティングがツーリングのテーマのひとつだった頃、人吉は憧れだった。

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公衆浴場のうちのひとつ「新温泉」は、繁華街のすぐ近くにある。
繁華街と言っても住宅と雑多に混在しているエリアだが、それにしてもこの古風な建造物が忽然と現れたことに少々驚く。
人吉温泉でも、もっとも歴史のある公衆浴場だ。

番台で300円を払い、入浴する。
本当に何の設備もない施設。銭湯よりも、さらにシンプル。
脱衣室はカゴ以外には空間があるだけ。浴室には浴槽があるだけ。かろうじて温泉の出るカランが1個あるのみである。

このシンプルさがたまらない。

泉質の良さは言うに及ばず。
後から入ってきた地元の年配の方と言葉をかわすと、数時間前に到着したばかりにもかかわらず、この地に馴染んだような気になる。

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ぬるめのお湯だったが、外に出ると体の芯まで温まっていたことに気付く。
小雨の街を歩きながら、本日の店探し。

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予約無しで飛び込んでみると、宴会客で混雑はしていたが、運良く席は確保できた。
毎度のことながら、地方都市のGWは同窓会的な集まりで、本当にこの立地で成り立つのか?と思わせる店でも混雑する。
人吉も例外ではなく、外にはまったく人が歩いていないのにもかかわらず、この繁盛ぶり。 

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焼鳥屋ではない鶏料理の店で、これが昨日に引き続き素晴らしかった。
昼間のだご汁はいったいどこに消化してしまったのか。胃袋は次々と時の美食を欲する。
熊本県の店は、どこも期待を裏切らない。

そして人吉といえば、球磨焼酎だ。
熊本は米焼酎だが、中でも人吉・球磨地方の水で仕込んだもろみを、人吉・球磨で蒸留してできる焼酎に限って、球磨焼酎と呼ぶ。
山間の狭い地域だが、蔵元の数は多い。

常圧蒸留タイプと減圧蒸留タイプがあり、通常の米焼酎より味わいが濃く、それでいてマイルド。実に美味しい。
「武者返し」に次いで「球磨の泉」をいただく。温まる温泉と美味い料理とも相まって、極楽気分。

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雨で走りを存分に楽しめなかったのは、どこへやら。
人もまばらな怪しげなナイトストリートには、気になる佇まいの店にも遭遇したが、一軒目で満足した結果、暖簾をくぐることはなかった。

素晴らしきかな人吉の夜。
しかし、まだ旅は序盤。これで満足するわけにはいかない。 

 

・・・・・・・

 

翌日の朝、エスを謎のステーションホテルに置いたまま、近所の青井阿蘇神社に散策に出かける。
散策と言っても、相変わらずの雨。今日も一日、満足に走ることは叶わない。

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青井阿蘇神社

日本最南端の国宝建築を有する青井阿蘇神社。建造は江戸初期。
桃山様式を受け継ぎながらも、どこか田舎風。その味わいもまた良い。
この旅の安全を祈願し、人吉の町に別れを告げる。

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(神社の従業員駐車場に、オリジナル度の高そうな黄色いビートが)

この日は、走行中の写真がほとんど残っていない。
ひたすら雨だったので、さすがに撮る気にならなかったのか、理由は今となっては定かでないが、走った距離が短かったのは確かだ。
淡々とルートを紹介すると、国道221号でえびの。えびのからは県道30号でえびの高原。県道1号で霧島温泉。国道223号で鹿児島空港付近まで。

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通常なら走って楽しいワインディングロードなのだが、土砂降りでどうしようもなく、ただ走り過ぎるに徹することとなった。
久しぶりに訪れる霧島は、楽しみにしていたのだが。

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県道40号で姶良の内陸部を抜け、県道16号で吉田、鹿児島市内へとつないでいく。
鹿児島の街で向かったのは、市街地を望む高台にある、とある場所。

 

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南洲墓地

墓地である。鹿児島、つまり薩摩国とは、切っても切り離せない、そんな場所。

南洲とは、西郷隆盛のこと。
この墓地には、西郷隆盛の墓を中心に、西南戦争で命を散らした薩摩軍を中心とした士族たちが眠っている。

昨年の九州ツーリングをきっかけに、幕末から明治維新、西南戦争という激動の時代での、薩摩という地に生まれた西郷の生き様を知った。
今更ながら強く感化されたこともあり、どうしても訪れたかった地。
墓前に手を合わせ、彼の理想、思想を少しでも自らの生き方に重ね合わせてみたかったのだ。

墓地には南洲神社、そして西郷の一生を綿密に学ぶことのできる記念館のような施設がある。
この施設の展示内容は、実に事細かで興味深い。外は雨天だということもあり、時間を忘れて、薩摩と西郷の歴史に思いを馳せる。

 

・・・・・・・

 

既に時間は昼を過ぎ、鹿児島市内では天文館を少し歩くことに。
いくつか店を覗いた後、ふたたびエスを走らせる。とは言っても、市内から抜けることはしない。

それほど減っていないタンクにハイオクを充填したら、向かう先は。

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平成31年4月30日、平成というひとつの時代が終わりを告げようとしていたこの日、S2000と1059は雨の中、洋上へ。

新しい時代の幕開けは、今、すぐそこに。

 Posted by at 7:33 PM

  6 Responses to “平成の夜は雨と共に”

  1. 馴染みのある場所ばかりで、
    何か熊本を褒められるようで嬉しくなりました(*^▽^*)
    今日はたまたま阿蘇に出かけたので内牧の公園で遊んできました。
    金時もすぐ近くでした。内牧温泉街は全く知らなかったのですが、
    レトロなお店があったりと面白いですね。
    ゆっくり散策してみたくなりました。
    次の記事も楽しみにしています。

    • 熊本には褒める要素しかありません(笑
      特に阿蘇は、何度訪れても素晴らしいです。
      立野の通行止が続いていたりと、地震の影響はまだ残っていましたが、それでもここまで復活していることを目の当たりにして、本当に嬉しくなりました。

      ご指摘の通り、内牧温泉の宿は金時でしたが、たまたまキャンセルが出た部屋が広めでトイレも付いてた(笑)ので、極シンプルな施設でしたが旅情があって良かったです。女将さんの人柄も最高でした。
      温泉街は、あか牛丼の店が超有名みたいですが、他にも魅力的な店がありました。
      今回行った店は写真の通りですが、女性だらけの民芸風居酒屋(笑)で、実にオススメです。

  2. 晴れの日もあれば雨の日もあるロングツーリングですが、雨の日の過ごし方のお手本のような立ち寄りスポットの数々が実に愉しいですね。
    そのまま観光パンフレットになりそうです(笑)

    そういえば旅の中で人吉の温泉宿に泊まったものの、周辺を全くチェックせずに終わっています。こんなに魅力が詰まった街があるとは。
    「新温泉」の佇まいが素晴らしい、、流石は温泉ハンター・1059さんだと思います。
    “夜のお店”の盛り合わせ、凄いですね・・・謎の部位ばかりで(汗)

    で、突然の船旅(!)この後の展開も楽しみです。

    • 10日間ツーリングして、天気が続くなどということは季節柄あり得ないので、そこは割り切るしかありません。
      どんな天候でも楽しめる術を知る旅人でありたいですし、何となくそういったことも自然とできるようになってきたような気がします。

      人吉の大きな温泉宿は街から離れたところにあるので、敢えて宿は駅前の安宿、温泉と食は街で楽しみました。
      「新温泉」みたいな公衆浴場は基本ですね。元・温泉ハンターの血が、久々に騒ぎました。

      最後の急展開。
      S2000 meets Shangri-La.
      乞うご期待です。

  3. クルマ旅に鉄道のネタが入るといいですね~
    クルマ好きになる前は「鉄」が好きだったので、反応してしまいます(笑)
    しかもSL(黒蛇)ですか。。。

    実はここ数年で何台かSLが復活していて、関東の一部でも土日祝日走っていて
    群馬に走りに行ったときは、希に遭遇したりします。
    維持、管理が大変でコストが掛かるらしく、正真正銘の文化財保護です。

    時代の節目と始まりをどんな地で迎えられたのか、非常に気になります!

    • 鉄道趣味はまったく無いのですが、旅情を感じるという意味では、駅舎や線路、古い鉄道車両には惹かれますね。

      改元を意識して合わせたわけではないのですが、自然とそうなってしまいました。
      船旅はもはやR style Touringの定番ですが、それゆえ時代の変わり目としては相応しかったのかもしれません。

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