冬の足音近づく晩秋。玄界灘に浮かぶ壱岐の島に、S2000で訪れた。
郷ノ浦の港に着岸した後、観光シーズンの過ぎ去ったクルマもまばらな島内を道を、のんびりと走っていく。
最初に訪れたのは、牧崎公園。青い海に突き出た、壱岐西部の岬。
強い風が縦横無尽に舞う地形だからか、樹木の植生がない見通しの良い岬。
紺碧の海の向こうには、対馬がはっきりと見えている。
対馬海流が島の岸壁に打ちつける。生々しく表出した地層が、容赦のない潮の力を物語る。
海流の真っ直中にある壱岐の島は、いずれどこかに流れていってしまいそうなほど、小さく心細い島だ。
ただその心配とは裏腹に、長い歴史と文化に彩られた島でもある。
「古事記」「日本書紀」では5番目にできた島とされ、長い時の流れを伝える数多くの痕跡が、この島の永続性を物語っている。
次の目的地まで、長崎県道59号を走っていく。
フェリーは福岡、または佐賀県唐津からの便となるが、行政区域としては長崎県に属する壱岐。
その繋がりは希薄で、島内を走る車両のナンバープレートでのみ、その事実を知るに過ぎない。
県外ナンバーの車両は皆無。
小さな島であるがゆえ、レンタカーでの観光が主流だ。
島内には縦横無尽に道路が走っている。
起伏はあるが険しくない。どこに行っても集落や農地があり、人の営みが島の至る所に張り巡らされている。
壱岐には、八本柱という伝説がある。
太古の昔、壱岐の島はあちこちに動き回ってしまう「生きの島」だったために、動き回らないようにと神様が八本の柱で繋ぎ止めたとか。
その八本の柱が島の周囲に今も残っている。
そのうちのひとつが、この猿岩。
濃紺の海原を背景にそそり立つ、その名の通りの巨岩だ。
澄やかに晴れ渡った空の下、周囲にいるのは、島猫一匹のみ。
壱岐湯本は、自然湧出の源泉で全国的に名の知れた温泉。
温泉宿が立ち並ぶ中心から外れた場所に、鄙びた立ち寄り湯を見つけた。
鉱物成分と塩分豊かな濃厚な源泉を、そのまま溜めた湯船。
壱岐の自然の産物に浸かり、島成分を体内に染み入らせる。
長湯で芯まで温まった身体で風を切って走ると、格別な心地良さ。
しばし県道231号を北上し、本宮八幡神社へと向かう。
小さな島にも関わらず、登録されているだけでも150もの神社が存在する壱岐。
古代からの時の流れが息づく島内の空気は、どこか神聖なものとさえ感じることがある。
決して大きな社ではない。むしろ小さくて、自然と一体化しているような。
神域とはそういったものだから、そう感じるのか。
夕刻が迫り、神域は一層厳かに来る者を見定めている。
壱岐北端の町、勝本。
漁で栄えた古くからの港町で、入り組んだ港の岸壁には、無数の漁船が停泊している。
そこから一本内陸に入り込んだ通りの風情が素晴らしい。港の形に沿って大きく湾曲した通りが視線を遮り、歩く楽しみを誘い出す。
島の宿は、この町並みの一角にあった。
朝市も立つ通りを挟んだ目の前には、酒造を改装したブルワリーが。
S2000を宿の駐車場に停泊させ、醸造所の一角に設けられたタップルームで島ビールを楽しむ。
白麹で醸した麦酒は、ゴールデンエールもIPAも味わい深く、すっかり虜になってしまった。
夕食は、宿の隣にある酒蔵を改装した居酒屋へ。
島の食材を利用した創作料理の数々に舌鼓を打つ。
そして壱岐と言えば、麦焼酎。ひんやりとした外の空気を土壁越しに感じながら味わう壱岐焼酎は格別だった。
食と酒を堪能して、木造三階建の古建築を改修したゲストハウスへと戻る。
今宵の宿と食と酒が、島旅の風情をより豊かなものへと昇華してくれた。
こんばんわ。T.Uです。
壱岐の島。僕はもちろんまだ訪れたことはありませんが、
美しい風景、その中に佇むベルリナブラックのS2000。
そして、歴史や伝説にも彩られ、なんとも旅情をそそられます。
立ち寄り温泉まで紹介して下さり、かつてのR styleを知る読者としては、
嬉しい限りでツーリング欲が高まってしまいます。
続きを楽しみにしております。
こんばんは。
島旅は昔からの定番ですが、壱岐は15年前に素通りして以来、ずっと喉元に引っかかったように気になっていた島でした。
言ってみて思ったのは、想定外に小さな島だったことですが、弥生時代における貿易の窓口だったこともあり、遺跡などの見どころは多く、他の島にはない魅力が詰まった場所でしたよ。
たまにはこういうステージも悪くないですね。