3月 192017
 

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先週末だったかな。小春日和に誘われて、代々木公園界隈を散歩してきました。
この周辺で個人的に外せないのが、国立代々木競技場。前回オリンピック時に、水泳競技場として建てられたのが第一体育館です。

何が凄いって、この造形です。
建築だけでなく土木、船舶など、ものづくりのあらゆる技術を結集して建設されたといわれます。
その結果、オリンピック開催のシンボルとしてのみならず、戦後高度成長を成し遂げた日本が誇る技術の結晶であり金字塔として、世界中から賞賛されたそうです。

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それから約50年、今もその建築は、雑多な都会のど真ん中にありながら、凛とした存在感を失わずに存在しています。
押し並べて短命な国内の建築の中では、異例とも言えます。
屋外の国立競技場のように壊されて新築されてもおかしくないほど齢を重ねているのに、取り壊すなどという話は、この競技場に関しては聞いたことがありません。

21世紀の今となっても燦然と輝く近代日本建築の最高峰という評価が、そうさせているのは確実。
かく言う自分も、この建築の存在感には圧倒され、ひれ伏さんばかり。

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ひと目見て圧倒されるその造形は、実は非常にシンプルです。
真上から見た平面図を見ればわかりますが、ほぼシンメトリーな構成。競技場という用途の性質という側面もありますが、対称性が美しさの一因ですね。

そして何と言ってもこの屋根。
両端に直立した巨大なコンクリートの柱は、寺院の屋根の鴟尾にも見えます。
そう、この屋根の造形は、唐招提寺金堂のような古代の寺社建築のそれによく似ているんです。

また、屋根が立面全体の半分近くを覆う姿は、日本の民家そのもの。
この建築は、日本古来の建築要素を色濃く反映した造形で成り立っているのではないか。
日本人の意識の奥底に潜んでいる郷愁に、形態で語りかけてくるわけです。

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さらに着目すべきは、この構造形式。
優美な曲線を描く屋根のラインは、「吊り屋根」という類稀な構造によって生み出されています。

これもどこかで見たことないですか?
そう、「吊り橋」ですね。
世界最長の明石海峡大橋をはじめとして、狭い国土に多数の吊り橋が架かる日本。吊り構造の技術は、おそらく世界一でしょう。
今から50年以上も前に、その技術を建築に応用したのが代々木なんです。

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屋根の両端にそびえる柱は、吊り橋で言えば主塔。
そこに2本のワイヤーが吊られ、屋根をぶら下げる構造。
主塔の外側、建物の両端には、吊り橋のアンカレイジにあたる基礎があり、ワイヤーの張力を保持しています。

その構造は、まさに吊り橋そのもの。
そしてこの吊り構造が、建築の造形の大部分を決定している。

実はこれが素晴らしいところで、構造そのものがデザインになっているんです。
余計な装飾はまったくなく、構造形式によって生み出される形態だけで、日本の建築文化に敬意を示す造形を生み出し、かつ競技場としての機能を満足させた。
これが、代々木を伝説的建築にしている最大の要因だと思っています。

 

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この建築を設計したのは、丹下健三先生(1913〜2005)。戦後日本を代表する建築家の一人です。(画像は生誕100年時のgoogle扉画像)
個人的な印象としては、丹下先生が生み出した建築は「神社」に近い。
明快な形態、機能的な構造美、日本の建築文化の延長にある造形の融合が特徴で、不思議と見る者の精神に働きかけてきます。

代々木もそう。屋根は寺院の屋根に似ているとしましたが、全体の佇まいは、神社そのものです。
日本的精神の根底を伊勢に見ていた丹下先生が生み出した、もっとも明快な建築であると思います。

丹下先生は同時期に「東京カテドラル聖マリア大聖堂」という建築も設計していますが、こちらもぐぅの音も出ないほど素晴らしい芸術的建築です。
なかなか見学できないのが残念ですが、機会があったら紹介したいですね。

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たまには都内にある見処を訪れるのも悪くない。
東京をドライブ・散策することがあれば、ぜひ代々木に立ち寄ってみてください。

 Posted by at 12:50 PM