松江城を散策した後、堀を跨いで北側にある古建築のスポットを訪れようと歩を進めたものの、カメラの電池がほぼ無くなりかけている。
スペアの電池をホテルに忘れてきたのに気付き、仕方なくいったん戻ることにした。
せっかくなので、街並み散策を兼ねながら歩いてみる。
松江の城下町は、その雰囲気を色濃く残している。宍道湖に流れる川や堀が幾筋も市内を流れ、街歩きを楽しむ情緒には事欠かない。
ホテルに戻る道すがら見つけた酒造。
松江は地酒の宝庫。その地酒の老舗のひとつ、國暉酒造の酒蔵兼店舗だ。
多くの銘柄が、カウンター奥に並んでいる。思いのほか種類が多くて選び切れず、店員さんにこの時期のオススメを聞いて1本購入。
その名も「不昧公」。名前の意味は、後ほど。
川の畔に出ると雰囲気のある柳の並木道。
堤防がない街中の川の風景が新鮮だ。
その並木道に面するこのお店。
古いテーラーの店舗を居抜いたというコチラ、実は2年前にも立ち寄っている、器をメインにしたセレクトショップだ。
この店で「湯町窯」の器に出会ったことで、今回の松江訪問、つまりは島根ツーリングの動機となったと言っても過言ではない。
湯町窯、出西窯、岩井窯などの山陰の窯元のこれぞ!という器を販売しているほか、積極的に企画展を開催するなど、なかなか無視できないオーラを漂わせる店。
仲の良い若い夫婦が2人でやっているところもまたいい。2年ぶりの訪問であることを伝えて、おしゃべりも楽しみながら、お気に入りを探索。
中でも、直前の企画展で販売していたという京都の陶芸家、落合直史氏の作品に強烈に惹かれた。ぶっちゃけ売れ残りが置いてあるにもかかわらず、だ。
非対称の形状と高温で焼かれた器の表情にノックアウトされた。売れ残りとは言えこれも何かの縁。売れ残ったマグカップを購入すていくことに。
前回に引き続き、これぞ!というお宝を発見できて大満足。
地方にあっても侮れない、てゆうか東京にあったとしても絶対に魅力的であろうという松江の名店「objects」
ここに来るためだけに松江に来てもいいくらい、波長の合うお店なのである。
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ホテルでデジカメの電池をピックアップし、タクシーで松江城の北端へ舞い戻る。
そこには、小泉八雲がかつて住んだ住居が残っている。
小泉八雲、本名ラフカディオ・ハーン。「怪談」で知られるギリシャ人の彼が、わずか5ヶ月間という短な期間ではあるが、構えた居宅がこの松江にある。
中を見学できるが、割とこぢんまりとしていて、建物自体よりも庭を見せる内容だった。
この手の著名人の旧居というと、3月に奈良で訪れた志賀直哉旧居が規模、質ともに素晴らしかっただけに期待し過ぎたのがいけなかったか?
八雲邸の隣には武家屋敷もあって見学できたが、こちらも特筆すべき所はなかったように思う。
お次は、松江城の北側の堀に沿う塩見縄手から少し入った所にある「明々庵」
松江藩七代藩主松平治郷、通称「不昧公」が、1779年に建立したという茶室だ。
大名茶人として茶道を究めた不昧公の影響で、松江は茶道文化が花開き、今でも茶、和菓子にまつわる文化が色濃く息づいている。
そのルーツとも言えるのが、ここ明々庵なのだ。
建立が18世紀ということもあり、一目見て保存状態がすこぶるいいことに驚く。
ただ、その詳細を紐解くと、もともとこの地に建てられたのではないことがわかる。
最初は松江市内の別の場所に建築されたのだが、市内はもとより、東京原宿、四谷と、遠く離れた地でも転々と移築され、松江に戻った昭和初期以降には戦時中の世にあって荒廃し、1966年になってようやく今の地に移って現在の姿になったという。
どうりで保存状態が良いわけである。
かと言って、見る価値が無いかというとそんなことはない。
分厚い茅葺屋根を頭に載せた茶室は、どこかユーモラスな反面、粋な精神を感じる。
躙口から覗く小宇宙は、訪れた人だけのお楽しみということで。。
茶室の定石に必ずしも従わない、不昧公の好みが色濃く反映された茶室。
茶の世界が侘び寂びで語られるように、茶室という建築にも、完璧でないディテールに遊び心が漂っている。
自然との調和を人工物にそこはかとなく表現しているかのようにも見え、無限の奥深さを感じてしまうのだ。
まったく、日本建築というのは、本当に素晴らしい力と意味を持っているものだ。
松江に来たら、松江城と明々庵。これだけは必見ですな。
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明々庵の後は、同じく不昧公ゆかりの観月庵なる茶室にも訪れてみた。
松江城中から堀を舟で訪れては茶事を催した、とあるが、殿様が平安時代の貴族の如く、のんびり舟に乗って茶を楽しみに行くという時代があったのが凄い(笑
悪くはなかったけど、明々庵を見た後ではちょっと迫力不足だったかな。
とか言いつつ、写真はいっぱい撮ったけど。
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観月庵を出た頃には、かなり夕方に近付いていた。
賑やかな界隈からはかなり外れた場所まで来てしまったので、やや寂しい。
今宵の宴(?)には少し早い時間だったので、ちょっと歩いて商店街の方まで散策。
GWの最中だからか、いつもこうなのかは定かではなかったが、何とも寂しい商店街。ほとんどの店はシャッターを締め切っているのに、スピーカーからBGMだけが鳴り響いている。
せっかく松江の茶文化に触れたので、和菓子屋を何軒か覗いてみる。和菓子屋が充実しているところが、松江に茶文化が色濃く残っていることを証明している。
頃合いの時間になったのを見計らい、大橋川に架かる新大橋の袂にある小料理屋へと足を運んだ。
宍道湖から吹き付ける風もさわやかなの立地に、雰囲気バツグンのこの佇まい。
実は、昨夜微妙な時間に覗いて満席だった店のひとつ。悔しかったので、その後すぐ電話して予約しておいたのだ。
早い時間なら席を用意できるということだったので、19時までの1本勝負(?)である 。
予約時間より30分も早い17時に入店、当然一番乗り(笑
せっかくなので地の物を、ということで女将さんのオススメ料理をいくつか出していただく。
赤貝の殻蒸し煮。寿司のネタのそれより相当小振りだが、肉厚で味も濃く、たいへん美味しい。
やはり宍道湖で捕れるからだろうか、この辺ならではの料理だそうだ。
もろげエビの素揚げ。宍道湖で捕れる名物らしい。単純な料理だが、これがどういうわけか異様に美味い。
いわゆる「ガスエビ」なのだが、日本海沿岸地域ではメジャー、その他ではほとんど目にすることもない代表食材(かも)。こんなに美味いのにモッタイナイ。
この他にも、松江おでんがこの店のウリで、他にはないちょっと変わったタネを選んでは酒、酒、酒(酔
松江の地酒(たしか「李白」)をどんどん消費してしまう。
気が付くと、周囲の席(カウンターと少しの座敷席があるだけの店)はいつの間にか客で埋まっていた。それでも次々と席を求めて客がやってくる。
給仕をしているオバチャンが不思議系の人(笑)で、いい味を出しているのも興味深し。うむ、松江の夜、満足である。
松江の夜なんて言いながら、店から出てもこの明るさ(笑
ホテルまで寄り道しながらぷらぷら歩いていく。
投宿する街の居酒屋で、その土地の空気を楽しみながら酒を呑むのが、ツーリング中の大きな楽しみとなっている。
何軒かハシゴすることもあるけれど、 今回はさっきの店がかなり良かったので、二軒目は入らず。
松江駅で土産を物色しただけで、ホテルに戻ることにした。
松江の夜は、完全に日が沈まないうちに終了。
島根ツーリング、これでようやく3日目が終わった。
このペースで、果たしてレポは終わるのだろうか・・・(ま、写真が多いのはここまでなんだけど(笑汗