6月 132016
 

2016 06 13 01

島根ツーリング4日目。
松江の街を出発し、国道432号で郊外へ。程なくして長閑な山中の道になり、狭い区間もこなしつつ広瀬に出る。
広瀬からは2車線の快走路。天気も良いせいか爽快なドライブが続く。
これといったイベントは何もないのだが、この素朴さが中国山地のいいところ。

途中で道の駅「酒造奥出雲交流館」 にて休憩。昨日、地酒を2本も調達しておきながら、思わずどぶろくに手を出してしまう。
さらに西へと走って三成、湯村。ここから農道経由で県道272号に入っていく。
ワインディングでも何でもない山中の道に入るのは、この先にどうしても行ってみたかったスポットがあるからだ。

2016 06 13 02

菅谷たたら山内

奥出雲は和鉄の産地である。産地だった、という方が正しいかもしれない。
今はもう生産していないが、かつての生産現場「菅谷高殿」と、たたら製鉄の技術者が住んだ集落「山内」は、かつて栄えた名残りを現代に伝えている。
これも一種の産業遺産。全国に名を馳せた奥出雲の和鉄生産現場の息吹を感じてみたい。

集落に近づくと、いきなり目に飛び込んでくる、平たい大きな建物と1本の大木。
導かれるようにその下にエスを停車すると、まるでタイムスリップしてきたかのような感覚に陥る。

2016 06 13 03

2016 06 13 04

建物はこれだけでなく、周囲に蔵や長屋のような建物も点在していた。
そのうち、長屋に受付らしき場所があったので覗いてみると、案内人のおじさんが裏から出てきて、ガイドを始めた。

2016 06 13 05

早速、菅谷たたらの中心施設、高殿へご案内。
他に客はいないのだが、丁寧に付き添って説明をしてくれる。

内部に入ると、歴史はあるが保存状態良好な木組みが露わになった大空間。
たたら、つまり和鉄生産の中心施設であり、その生業が想像できる空間だ。

2016 06 13 06

砂鉄を溶かして固めることで作られる和鉄。千度以上の超高温を得るため、随所に工夫がなされている。
その工夫ひとつひとつを、生産過程に沿って説明していただける。時には手作りのイラストまで出てきて、非常にわかりやすく勉強になる。

2016 06 13 07

生産過程は説明し出すと長いので、ここでは省略するとして(興味ある方は、現地で是非)、建物そのものも見応えがある。
なんだかシャキッとしてるなぁと思ってたら、案の定、解体修理が済んだ直後だそうだ。
国の重要文化財である建物の修理は、基本的に元の材料をそのまま使わなければならない。
補強や耐震化はそれとなく自然な感じで潜ませて行わなければならず、その苦労が随所に見られる。

2016 06 13 08

痩せた柱を継いで、建物の歪みを矯正する。解体修理が行われる前までは、どれだけ歪んでいたのかがよくわかるというもの。

2016 06 13 09

江戸時代から続く内部空間には、実は補強の架構が付け加えられている。
このさり気なさが、文化を継承する技術というもの。実に素晴らしい。

2016 06 13 10

白熱のガイドは、外にも及ぶ。
たたら製鉄を取り仕切る技師長である「村下(むらげ)」は、その日の製鉄の前にこの川で身を清め、村下しか通ることが許されない村下坂を上って、高殿に入ったという。
村下は世襲制で、一子相伝の技術でたたら製鉄の文化を守り続けたそうだ。 
観念的なしきたりと製鉄技術が混在しているところに、鉄を作るという神秘性を感じずにはいられない。

2016 06 13 11

ちなみに和鉄は、日本刀の素材である。
今は奥出雲で一軒だけ生産している工場があるという。それも刀という文化を絶やさないために、わざわざ作り続けているのだそうだ。

2016 06 13 12

滑舌良くガイドを続けるおじさん、タダものでない感じが漂っていたが、この山内に生まれ育った地元民だそうだ。
それにしては説明の抑揚がプロ並み。元は先生か公務員で、務め上げた後に生まれ故郷に帰って、地元ガイドに手を挙げたのではと勝手に想像してみる。

何にせよこの熱意は、地元愛が為せる技だ。
この場所が好きで好きでたまらない、訪れる人にこの素晴らしさを知ってほしいという熱意に満ち溢れている。それがこの素晴らしいガイドに繋がっているのだ。

ガイド終盤に知ったのだが、実はこの日は見学を受け付けない定休日だったそうで、たまたまやることがなかった(つまりヒマだった(笑)ので、案内所にいたところに、訪問客(自分)が現れたそうだ。
まったく知らずに訪れてしまったが、極めてラッキーだったのだ。前日は大勢の観光客が訪れていたという。
こんな山中の地味なスポットに大勢の観光客?と思ったが、最近文化庁による日本遺産なるものに指定され、更にEXILEが主演する「たたら侍」なる映画が制作されていることから、にわかに注目を集めているそうな。

2016 06 13 14

それらを実に嬉しそうに話すオジサンの喋り口調と表情が、菅谷たたら山内で一番印象的だった。
自分にも故郷があるが、こんな熱意で語り伝えることができたら幸せだろうなと、奥出雲の歴史ある小さな集落でしみじみと思うのだった。

2016 06 13 13

 Posted by at 2:40 AM